Karasuno VBC
ふと気がつけば、仁花が東京に経って1週間が過ぎようとしていた。
烏野が参加したの、東京都内の強豪校で組まれた梟谷グループの合宿だと、先日メッセージが飛んできていた。
みんな身長が高くてビビっている的な内容も書いてあって、その光景が目に浮かんで笑ってしまった。
きっとパニクって一人空回ししているだろう仁花に、清水先輩がフォローする姿は以前も何度も見たことがある。本当に仲間に恵まれたなぁと思う。
ぽちぽちと返事をしながら、ゴロゴロしていると、「いつまでダラダラしてんのよ」とさっきからうるさい掃除機音が一気にうるさくなって、私の横っ腹に掃除機ヘッドをバシバシ当ててくる母。
そう何を隠そう学校が休みイコール母の仕事も休みという幸運に重なった不運のせいで、せっかくの夏休みが全く楽しくないものになろうとしていた。
「あんた課題は終わったの?」
「は?誰に行ってんだよ、もち。」
このクソ暑い夏日に、わざわざ外に出るなんてあり得ない私は、夏休み始まって数日でやることがなくなり、ついには課題に手を出してしまう始末。
そのおかげで課題が夏休み初っ端に終わってしまい、やることがなくなっていつも以上の母の小言を聴きながら、夏の暑さに勝てるはずもなくダラダラと過ごしていた。
無事生還した!と仁花からのメッセージが来たのは、そんな頃だった。
だがしかし!課題が終わってない。
週末課題とお土産持って行くね。
と続いたメッセージに笑いながら楽しみにしてると返した。
「え、聞いてないんだけど」
週末、宮城でも最高気温が35度を記録した猛暑日。玄関のドアを開けると、モワッとした熱風と共に仁花を先頭に日向、影山、それに山口くんと月島くんまで、バレー部一年が勢ぞろいしていた。
「や、やっほー…」
「…え?」
苦笑いを浮かべる仁花と、その横でキョロキョロと玄関から見える中庭に興味津々の日向。
「町田さんちでけー!」
「うるせぇぞ、ボケェ」とはしゃぐ日向、影山。その後ろでは、申し訳なさそうな表情を浮かべる山口くんと、相変わらず飄々として、暑いから早く入れろとでも言いたげに見下ろす月島くんが続く。
「と、とりあえずどうぞ。」
「お邪魔しまーす」
ゾロゾロと家の中に入ってくる彼らは、いまだに状況がつかめない私の目の前を通り過ぎていく。
「ご、ごめんね!今日衣織の家で課題やるって言ったら、日向達も終わってないっていうから…」
ボソボソと話す仁花の頭を鷲掴みするとにこりと笑った。
「訳は後で聞こう。」
「ヒェッ…!は、はい…。」
とりあえずこの人数は私の部屋には入らないなぁ。
「町田さーん、部屋どこ?」
「あー、待って今行く。」
「とりあえずここ使って」
襖を開け室内に入り、閉まっていた障子戸を開け縁側のブラインドを上げると、眩しいほどの光が差し込んでくる。
目を細めながら、そのまま押入れの扉を開けると、いつも使う机が立てかけてあるさ。
6人くらいはこれで余裕だろう。
そう思ってテーブルを押し入れの外に出すと、尽かさず目の前に伸びてきた手がテーブルの縁を掴んだ。
「え?」
「やるよ」
「月島くん、いや、あの。」
目の前にいたのは月島くんで、そのままテーブルの縁を掴んで持ち上げると、軽々と運んでいく。
少しの間その背中を見つめてしまった。
見た目細いくせに、これが男女の差ってやつか。
「テーブル、どこに置くの?」
「ま、真ん中にしよう」
「分かった。」
「…あ、りがとう…。」
テーブルを部屋の真ん中に起き、周りに座布団を人数分敷いて、エアコンをつけた。
「何だ仁花!人んちに男連れ込むなんてやるなぁー!」
うわ!その聞きなれた声に、はぁーとため息が出た。
ニヤニヤする母が「なっ、ちょ、違うよ!暁さん!!」と真っ赤になりながら反論する仁花の、その反応が可愛くてからかっているっていることを、知っているのだろうか。
柱に寄りかかって、こちらを見ている母に、「お、お邪魔してます!」とそれぞれに挨拶をしている光景を見て、なんだか変な気持ちになった。
「はいよー、ゆっくりしてってね」
まるで嵐。手を振って去って行った母に、ため息をつくと「町田さんのお母さんてすごいね」とボソッとつぶやいた声に、本当に申し訳なくなった。
「かたじけない」
あとで、仁花にも謝っておこう。
「お茶しかないけどいい?」
「お構いなく!あ!衣織これ!」
「何?」
「お菓子と東京土産!」
「え、マジ、ありがと」
仁花から受け取ったスーパーのビニール袋と、紙袋にはそれぞれお菓子と飲み物、お土産が入っていた。
これは後でおやつにだそう。
テキトーなコップにお茶を用意し和室に戻ると、もうみんなは座って課題を広げていた。
「影山何からやるー?」
「あぁ?…数学」
「ツッキー、後で英語教えて!」
「別にいいけど」
「あ、衣織。」
「お茶どうぞ。」
空いていた日向影山が並ぶ斜め前に陣取る。
目の前に仁花が座りその隣に山口くん、私の隣には月島くんが座っていた。
とりあえず私の今日の役目はこいつらの面倒を見ること…であってるかな。
「とりあえず、自分だけででできる英単語とか、国語とか以外をやろう。よし、数学だ。」
「アス!」
「…ッス。」