うん、僕も好き
「あ」
最初に小さくそう呟いたのは彼の方だった。
放課後の自習室。背後からから聞こえてきた声に顔をあげれば、こちらを見ながらヘッドフォンを外す月島くんの姿があった。
「月島くん」
「…どうも」
ガタンと音を立てて、ためらいなく隣の席に座る月島くんの周りを見て、ふと疑問に思う。
いつも彼の近くにいる山口君がいない。
「…山口なら日直の仕事してたから、置いてきた」
「あー、なるほど」
日直って案外面倒臭いよね、黒板消したり、放課後日誌書いたり。真面目に書いたことなんてないけど。
別に聞いてもいないのに答えてくれた月島くんは、教科書をバッグから取り出していた。
本気でそこで勉強するのか、と驚きながらも特に何も言わずに、誤魔化すように再び教科書に視線を戻す。
「音楽聴くんだね」
「え?」
再び彼の声に顔を上げると、少しだけだるそうに頬杖を付きながら、私の机の上にあるウォークマンを凝視している。
なんだろうか。別に変なものではないし、変な曲も入ってない。
寧ろ中身なんて知らないだろう。
「うん、割と」
「いつも本読んでるか寝てるから、興味ないのかと思ってたよ」
「寝てないし」
「いや、寝てるでしょ」
よく見てるんだな、と思った。
確かに私はよく本を読んでる、もしくは寝てるか仁花と喋っといる。
友達が少ないわけではないと思うけど、休み時間にワイワイやるのはあまり得意ではないから自分から賑やかな輪に入ることはない。
そう言えば、前に日向もあいつはよく敵を観察してるなんて言ってたっけ。
「何聞くの?」
「え?」
「ん。」
月島くんが指差したのは、私のシルバーのウォークマン。
「うーん、テキトー。誰かがいいって言ったやつとか、昔から好きなバンドとか。洋楽とかは、あんまり知らないから、曲数少ないんだよね。」
「…教えようか?」
「え?」
「洋楽、僕が聴いてるやつでよければだけど」
そう言って制服のポケットから取り出したそれは、私と全く同じものだった。驚いて見つめていると、月島くんは指先で慣れたように軽く操作し、画面を私に向けてくる。
画面に並ぶ文字は言わずもがな全て英語で、タイトルもアーティストも知らないものばかりだ。
というか読めない。
「すごっ」
「これなんてどう?」
「へぇー、聴きたい」
「別にいいけど」
イヤホンをさし直そうと、ウォークマンに手を伸ばそうとすると、月島くんはバッグからヘッドホンを出してくれて、「はい」と言ってそのまま私に被せた。
おぉう…。
まさかの展開に驚いていると、机に置いてあったウォークマンに触り、再生ボタンを押した。
外の音が遮断された静かな空間に、軽快なメロディが流れ始める。
確かにこれはいい曲かもしれない。耳障りのいいイントロと、中性的な声。
「これ、いい曲だね」
そういうと、月島くんが何か言ったのが分かった。でも、ヘッドホンのせいでよく聞こえない。
「ごめん、何?」
改めてヘッドホンを外し、月島くんを見ると「別になんでもない」とだけ言って、ヘッドホンを袋に入れた。
「この人の声いいね。家に帰ったら調べてみる。ありがと」
「別に…」
そう言うなりそっぽを向いてウォークマンを仕舞う月島くん。前も思ったけど、月島君はツンデレなのだろうか。
ちゃんと喋るのは先日の休み時間含めたら数回目だけど、私の中で月島くんの印象は思ったより優しい人、に変化したのは言うまでもない。
「明日から東京なんでしょ?」
そういうとなんで知ってんの、と言いたげな顔をしたから「仁花に聞いた」と、続けた。
「そうだけど。」
「東京バナナとか買ってきてくれたり」
「しない。僕たち遊びに行くんじゃないんだけど」
はぁ。と呆れたようなため息をつかれた。
ですよねー。うん、わかってたよー。言ってみただけー。