だって素数は割り切れない



男同士での寝泊まりで、いいかげん共通の話も尽きた頃、ぽつぽつと出てくるのがこの話題だった。
「じゃあじゃあ、タカオはやっぱりヒロミちゃんが好きなの?」
僕の質問にタカオは「ば、ばか!そんなわけないだろ!」と動揺した声を出す。
「まあまあ。タカオー隠したって分かるんだぞ?」
「隠してねえよ・・・どう見たってちがうだろ」
素直になれよ、と余裕ぶっている相手に「じゃあお前は誰が好きなんだよ」とタカオは反撃した。
「え、そ、それは・・・」
答えに詰まるレイを見て、ふたりで顔を見合せて笑う。
暗闇の中のこんな会話でわくわくするのは、僕たちが思春期まっさかりだからかもしれない。
いつもはうるさい大地は布団に入るなり大いびきをかいて寝ている。
カイはあいかわらず自分のペースで行動しているらしく、今は遅いバスタイムを堪能しているようだった。
「やっぱりタカオはヒロミちゃんが好きで、レイはマオが好きなの?」
やっぱりってなんだ、とレイは動揺した声を出す。
「ちがうの?」
「好きだけど、それは幼なじみで妹みたいなもんだから」
「それがいつの間にか恋だった・・・てこともあるよな?マックス」
そうそう、と悪ノリしていると、戸惑ったようにレイは言った。
「だけど俺は・・・多分、それはないと思う」
「?なんでだよ」
タカオが聞き返した時、がらりと音を立てて部屋の戸が開いた。
「・・・なんだ、まだ起きてたのか」
「カイ!カイもしようー恋バナ」
しない、とそっけない返事をした彼はさっさと布団に潜ってしまう。
「ちぇーつまんねえの。いいじゃんちょっとくらい」
「いや・・・恋バナに積極的なカイはちょっと想像できないな」
「たしかに・・・」
気を取り直して、僕は「じゃあ、発表しちゃうネ!」と言った。
「えっ、まさかマックス」
「ちゃんといるよー好きな女の子」
誰だよ、俺の知ってる子?とタカオは身を乗り出す。
「僕はなまえちゃんが好きなんだよネ!」
一瞬、しんと静まりかえる。
「・・・え?え?」
「だ、だめだ!」
レイの大きな声にびっくりして目を丸くしていると、衝撃の言葉が飛び出した。
「俺もなまえが好きなんだ」
「待ってよレイ、僕が最初になまえちゃん好きって言ったじゃん!」
その時「盛り上がっているところ悪いが」とカイが静かに口を開く。
「なまえのことは・・・俺も好きだ」
えーッ!!!という声が響き渡った。
「いやいや待てよカイ、頼むからこれ以上複雑にすんなって」
「レイもカイもだめだよ、僕が先に好きって言ったんだからネ!」
「関係ない。好きになったものはしょうがないだろ」
「レイの言うとおりだ。それに、俺は誰にもあいつを譲る気はない」
にらみ合いの末それぞれベイを握りしめ、
「こうなったらベイバトルで勝負だ!」
と、勢いよく立ち上がる。
その姿を呆然と見つめていたタカオは、はっとしたように叫んだ。
「お前らっ、こんな時間に近所迷惑なことおっ始めんなー!」


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