蜂須賀にかんざしをあげる話
できた。
久しぶりの自信作を何度も光に透かす。きらきらと輝くかんざしは、初期刀をイメージして作ったものだ。
「これ、渡せたらなあ・・・」
きっと彼は喜んでくれると思う。それとも「男だからこういうのはちょっと」と言われてしまうだろうか。
いっそ、何も言わずに自分で使うほうが良いかもしれない。
でも、でも。せっかくの作品、せめて見てほしいと思う。
「可愛いーなー」
ひそかに心の中でハッチと呼ぶ彼の色を閉じこめた石と、金色のパーツがきらきらと揺れる。
こわいのは、自分も自分もと上がるかもしれない声だ。
内緒ね、と言うのもなんだか気が引けるしなあ。
「蜂須賀ー」
「なんだい」
「えっ」
突然の返事で障子を開ける。
「どうかしたのか?」
「ん?いや、えーとね」
「?」
不思議そうな顔をしている彼に、私はあのね、と切り出す。
「うん」
「いらんかもしれないんだけど・・・これ、良かったらなんかで使ってくれると嬉しい」
差し出したそれを、蜂須賀はそっと受け取る。
「これ・・・かんざし?」
「うん」
「主が、見繕ってくれたのか?」
「ううん。作ってみたの」
えっ、と彼は目を丸くする。
「作った?これを?主が?」
「うん」
「つ、・・・作れるのか?」
「この飾り部分、私が蜂須賀をイメージして作ってみたんだ」
先ほどの私がしたのと同じように、蜂須賀は手の中をそれを光に透かしてまじまじと眺める。
「へー・・・これを君が、ねえ」
「うん。あの、もし」
「使う」
「使ってくれるの?」
「もちろん。嬉しいよ、ありがとう主。俺のためにわざわざこんな手の込んだものを作ってくれるなんて」
良かった、と胸をなでおろす。
蜂須賀はさっそく髪を結いあげてそれを挿す。
「ちょっと短かったかな」
「いや・・・うん、待って・・・できた」
「おおー!いい感じ」
金色のパーツが柔らかな色の髪に生えている。
アクセントに入れた濃い色の石が小さく揺れた。
「鏡あるかい?」
「あるよ。どうぞ」
合わせ鏡にして後姿を映してあげると、彼の表情が明るくなる。
「うん、なかなかいいと思う。ほんとにありがとう。大切にするよ」
「そう言ってくれて嬉しい。ありがとね、蜂須賀。あと、あの」
「ん?」
「私があげたの、内緒にしてくれる?」
言ってしまったなあ。
けれど彼は「もちろん」と笑ってうなずく。
「それを知ったらきっとみんな、自分も欲しいって言うだろうからね。あ、同田貫あたりはどうか分からないけど」
蜂須賀は指先でそっと飾りに触れながら言った。
「でも、自分のために作ってくれたのがとても嬉しいから、彼も欲しいと言うかもしれないね」
「私もいろいろ作りたいと思うんだけどねえ」
こういうのって時間がね、やる気がね。なかなか。
とにかく、喜んでくれてよかった。
「いつも思うけど、君はほんとに器用なんだな」
「そんなこともないけどねえ」
ふふ、と蜂須賀は嬉しそうに笑う。
「ああ・・・これ、誰かに自慢したいなあ」
「えー・・・まあ、いいけど。なんて」
「でも、そしたら君は全員分作るんだろう?」
「たぶん、欲しいって言ってくれたら嬉しいから」
「それもちょっと・・・ああ、俺って懐の狭い男だな」
「でも、こういう感じのが似合わない人もいるでしょ?難しくてねー」
「確かにね。まあ、なんであれ君が自分のためにしてくれるのは嬉しいものなんだよ」
やっぱりちょっと見せてくる、そう言って蜂須賀は行ってしまった。
***
広間に顔を出すと、青江が「あれ、」と顔を上げて言った。
「めずらしい結い方してるね」
「ああ」
しかしさっそくかんざしの存在に気付いた彼は、
「あれえ?いいものつけてるじゃないか」
と笑う。
「どうしたの、それ?」
「あ、これは・・・」
何と言おうものか蜂須賀は悩む。
内緒にすると言った手前、どう答えればいいのだろう。
「自分で買ったの?」
「いや、そうじゃないんだけど」
「ふうん・・・主にもらった?」
思わず黙ってしまった蜂須賀を見て、青江は「あっは、正直だねえ君は」と笑う。
「うんうん、いいんじゃないそれ。よく似合ってると思うよ」
「ありがとう、すまない・・・」
思わずかーっと赤らめる蜂須賀のそれに、青江はそっと指を伸ばして触れた。
「へえ、よくできてるねえ」
「ああ」
「なんていうか、高そう」
どうなんだろう、と蜂須賀は思う。
「ずいぶん凝った飾りだね。ひとつひとつが君らしくて、これを見て君に買ったのも分かる気がするなあ」
申し訳ない。すまない、青江。
蜂須賀は心の中で謝る。
けれど、こればっかりは言えないのだ。
「褒めてくれてありがとう」
「ん?んふふ、今度僕も見繕ってもらおうかな」
ほら、髪も長いしさ、と彼は楽し気に笑った。
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