新一くんと映画を見る話



仲良く並んで映画を眺める金曜日。
目の前にはアルコール抜きのモヒートがふたつ。
クッションを抱きかかえ、準備は万端だ。
「楽しみだねー」
「ですねー。どれだけはしょられてるか不安だけど」
コマーシャルも入るし、時間の都合上しょうがないことではあるんだけど、できればノーカットで見たい。
それなら借りてこいよっていう話なんだけど。
わくわくしながらオープニングを見ているなまえさんが可愛い。
なんならもうなまえさんを2時間眺めていたい。
「(いやいや、何考えてんだ俺・・・)」

***

あーなるほどそういうことか。
ミステリ系はなんとな先が分かるけど、いわゆるファンタジー系のストーリーだと予想もしない方向に展開していくから「おお」と思う。
ちら、となまえさんに目をやると、
「(え、)」
泣いてる。目真っ赤じゃん。鼻もすんすん言わせてるし。
たしかに感動するけど、そこまで琴線に触れるとは。
そっとティッシュの箱を視界に滑らせると、ありがと、と呟いて手を伸ばした。
「大丈夫ですか?」
「うう・・・泣いちゃう」
いく筋もの涙が頬を伝い落ちるのを見てきれいだな、とぼんやりと思う。
少しだけそばに寄ると、そっと彼女の頭を抱えるように撫でた。
なまえさんは大人しく、されるがままでいる。
可愛いな。まだすんすん言ってら。
時折こぼれるため息を掬いあげたくて、顔の位置をずらした。
「新一、くん」
泣き濡れたまなざしが俺を見つめる。
何も言わずに触れるだけのキスをすると、なまえさんの腕が背中に回るのが分かった。
「大泣きでしたね」
「うん・・・だっていい話だったから」
エンドロールは途中で終わるはずだから、印象的なテーマソングもきっと最後までは流れない。
テレビの電源を消すと、部屋には静寂が訪れる。
「新一くん」
「はい」
「ありがとう。一緒に観てくれて」
なんだよそれ。あーもう、
「(ほんっと調子くるう・・・)」
あいかわらず変な人だな、と思う。それから、可愛い人だとも。
涙で貼りついた髪を耳にかけてやると、彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「うわあ、なんかごめん・・・ひとりで盛り上がっちゃって」
「いや、俺も楽しかったですから」
それは本当だった。普通に面白かったし。
だから今度は、なまえさんとの時間を過ごしたいと思う。
からん、とグラスの氷が溶ける音がして、目と目が合う。
彼女のまなざしが揺らぐのを見てふたたび唇を重ねた。
ん、とこぼれる吐息が愛しい。
さっきまであんなに泣いていたくせに。
柔らかいし、いい匂いがする。
風呂上がりだからか。シャンプーの香りが心地良い。
かすかに開いた襟元から覗く肌に誘われるようにそっと吸いつくと、ちょっとだけ身をよじったものの受け入れてくれる。
「ん、新一くん」
舌を這わせると「んぁっ」と小さな声を漏らした。
「あ、もう」
「もう、なんです?」
「いじわるだなあ」
どっちがだよ、と心の中で返す。
本当にいじわるなのは照れ隠しのようにそう口にする彼女のほうなのに。
ウエストからそっと手のひらを忍ばせて、泳ぐ視線をとらえる。
好き、と呟いた声を唇で塞いだ。


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