演錬で清光が煽り合う話



「頑張ってね、みんな」
そう言って送り出された演錬、相手の部隊に自分と同じ姿をみとめて清光は目を向けた。
「ねえ、あっちにもお前がいるじゃん」
安定のささやきに彼はそうね、と頷く。
「だけどなんかピカピカしてない?」
言われてみれば、標準の服装をしている自分よりも彼は着飾っているようだった。
視線に気づいたのか相手と目が合う。
すると彼はにっと笑って言った。
「ね、これどお?」
「は?」
「いい感じじゃない?イヤリング、主に買ってもらったんだよ。それに マニキュアもラメが入ってんの」
ふーん、と清光は興味なさそうに答える。
「あんたは普通なんだ」
「まーね」
「愛されてないんじゃないの?かわいそー」
いらいらした様子で安定が「なに、あっちのお前すごい煽ってくるじゃん」と口にする。
しかし清光はどうでもいいとばかりに「そうね」と返しただけだった。
「主からもらったんだっけ?」
「そうだよ」
ふーん、と清光は呟く。
そして、
「趣味わる」
と言った。
「は!?」
「本当に主からもらったとしても、自慢するために自分で買ったにしても趣味悪すぎ」
睨みつける相手に対し、清光は口元に余裕のある笑みを浮かべた。
「言っとくけど、俺はちゃんと愛されてるよ。たくさん使ってもらってるから練度も上限までいってるし」
これが修行前の最後の演練てわけ、そう言うと相手はぐっと拳を握った。
「ッ、」
「俺は初期刀じゃないけど、今は近侍をさせてもらってる。主はたちのこと、ちゃんと分け隔てなく愛してくれてるよ。だから俺も期待に応えたい、それだけ」
必要以上に飾り立てても無駄だ。
「可愛いのもいいけど、強くないと意味がないよね」
対戦相手の清光は押し黙る代わりに鋭いまなざしで睨み据える。
「ちょっと、まだ始まってもいないんだけど」
呆れたような口調の安定に清光は苦笑してする。
「つい意地悪しちゃった。だって痛いんだもんあいつ」
性根を叩き直してやんないとね、と彼は柄を握った。

***

「ただいまー」
演錬から戻った彼らを「おつかれー!」という声が出迎える。
「全勝だったね」
「まーね」
どうしたの安定、と尋ねられた彼は「いや、」と口ごもる。
「なんか疲れた顔してない?」
「こいつがさあ」
「あっ、言うなって」
「えーなに?」
「煽るんだもん相手の清光を。僕ひやひやしちゃった」
あー、と彼女は苦笑いを見せた。
「そうなんだ?」
「別に、なんでもない。ね、主」
「ん?」
「俺さ、もっと強くなって帰ってくるね」
清光の言葉になまえは彼を見上げて笑顔を浮かべる。
「うん。期待してる」
「主、次は僕だからね」
安定の言葉に彼女は「もちろん」と頷く。
「あ、」
相手の清光がこちらを見ていることに気がついて、なまえは注目する。
「へえ、あの子かー」
「え?ああ・・・ていうかあっちの主、なんか性格きつそーじゃない?」
ほんとだ、と安定も同意する。
「あ、あの人?」
同期だよ、という言葉にふたりは目を丸くした。
「へえーそうなんだ」
「ぶっきらぼうだけどいい人だよ。なんかぽこぽこ集まるんだって」
「集まるって?刀?」
「うん。練度上がる前に大所帯になるから大変だって言ってた」
「ふーん。まあ主はひとりだもんねえ」
次々に顕現するからでしょ、と清光は肩をすくめる。
「やり方は人それぞれだからいーけどさ。俺はこっちで顕現されて幸せー」
「あ、僕も!」
「ふふ、嬉しいなあ。じゃあ私、ちょっと挨拶してくるね」
その後ろをついて行くふたりの「さっきのちくられるんじゃないの」「別にー」というやりとりに思わず笑みがこぼれた。


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