歌仙兼定



すっかり夜が深まった街の中を、ふたり並んで歩く。
「まったく、ここまで会議が長引くとは・・・君も疲れただろう」
その言葉になまえは頷く。
「19時前には終わるはずだったのにね」
「本当に、こんなに延びるならあらかじめ周知しておいてほしいものだよ。それにあまり中身のあるものではなかった」
歌仙の言うとおりだった。けれど、口を挟めるほど偉い立場でもない。
「とにかく夕食をとろう。ずいぶん遅くなってしまったね」
何気なく辺りを見まわした歌仙は、すぐに表情を曇らせる。
「あまりいい店がないみたいだな」
「ね、あそこは?居酒屋ならまだ大丈夫じゃない?」
居酒屋?と彼は眉根を寄せた。
「君は僕にあんな雅ではない場所を勧めるのかい」
「えーだって・・・そのくらいしかもう開いてないと思うよ」
じゃああそこは?だめ、あそこ、いやだ、そんなやり取りをくり返した後、やがて歌仙は言った。
「僕がいやだと言うのは、どの店にもあまり品が良いとは思えない人たちばかりが出入りしているからなんだ」
たしかに、彼の言うとおりだった。
「それはまあ私も同意見・・・」
「そうだろう?きっと疲れきっている主にとって、あんな連中と一緒に頂く食事は美味しく感じないと思うよ」
彼の心遣いは嬉しい。
でも、あいかわらず夕食からは遠ざかっている。
「ごはん・・・」
はー、とため息をついた歌仙は、
「あそこに行こう」
と指し示した。
「え?いやあそこコンビニだよ」
「分かっているよ」
「えっ、えっ?本気?」
「ああ。なんだいその反応は」
「だって歌仙、絶対にコンビニ行かないじゃん」
「普段はね。僕だってわざわざ店先に並んだ作り置きを食べたいわけじゃない。でも、他に選択肢がないのだから行くべきだろう」
手を引いて歩き出す彼の後ろをあわてて後ろを追いかける。
「私は全然おいしく頂けますけど。ほんとに大丈夫?テイクアウト探す?」
「居酒屋のだろう?たいして変わらないよ。それより、早く部屋に戻ってゆっくり休もう。君には休息が必要だ」
「歌仙にも、でしょ?」
「僕はまあ・・・君ほどではないが。戦慣れしてるしね。だけど君は女性なんだから」
守られていなさい、そう言ってそっぽを向いた彼の耳が赤く染まっている気がした。



- 85 -

*前次#


ページ: