プラチナイノセント



伸び悩んではいたものの、先を越されてばかりだった同期たちとようやく同じ場所に立てたのはついこの間のことだった。
おめでとうという言葉はどれも嬉しかったが、とりわけ嬉しかったのはなまえさんが笑顔と共にくれたあの時だったのは確かだ。
「おめでとう慎ちゃん。やっとスタートだね」
夢が叶ったね、そう言ってくれた友達もいた。
だけど彼女の言うとおり、俺にとってのスタートはプロ試験を合格したその時だったのだ。
そして。
長い間ずっと想っていた相手に、好きだと告げたあの日も。
幼なじみ、友だちと呼ぶには遠い、ほんのすこしだけ年上の彼女。
いつも近くで俺の夢を応援してくれていたなまえさんのことがずっと好きだった。
プロ試験合格、告白成功と続いた俺の運が尽きてしまっていたらどうしようか。
「あの時の慎ちゃん、耳まで赤くって可愛かったなー」
「もうやめてくれよ」
思わずそう口にすると、彼女はおかしそうに笑う。
春風にすくわれて柔らかな髪が揺れた。
「ふふ、ごめん」
可愛いな。俺、こんな可愛い人と付き合っているのか。
「(やばい)」
どうしよう。幸せすぎる。
「慎ちゃん?」
「や、ごめん。なんでもない」
ここで反応すればからかいの種になってしまう。我慢我慢。
「リーグ初参戦が決まった感想はどうですか?」
突然レポーターの真似をして尋ねてくるなまえさん。
「どうって言われても」
言葉に詰まっていると、彼女は「嬉しいとか、緊張するなあって感じ?」と訊いてきた。
「ああ・・・そりゃ嬉しいよ。緊張は、まだ分からない」
それよりもずっとわくわくしているんだと思う。
強い棋士たちの中で戦える。
そうすればきっと今よりも強くなれる。
「リーグ入りしたからってあぐらはかけないよ」
「おー言うー」
「からかってる?」
「まさか。なんか慎ちゃん、きらきらしてると思って」
いつの間にこんなにかっこよくなっちゃったんだろ、と彼女は小さく呟いた。
「え」
「なんでもない」
「いや、ちゃんと聞こえたから」
「あ、ねえアイス食べたい」
ごまかそうとしている彼女の頬がかすかに赤い気がして、そっと手をつなぐ。
「!」
「これぐらいいいだろ。小さい時はよくやってたし」
「そうだけど。なんか慎ちゃん、ほんとに大人になったねえ」
「なんだそれ」
小さくて華奢なこの左手に、いつかお揃いのリングをはめられる日が来るのが待ち遠しい。
「(頑張ろ、)」
リーグ戦、まずは白星だ。


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