ナギを甘やかしたい



”今夜はとても疲れています。なまえのおうちへお邪魔してもいいですか?”

「あいかわらず突然だなあ・・・」
いいよ、と短い返事を送って思う。
ナギくんはとても素直な子だ。
今夜みたいな時はもちろん、愛情表現となるとさらにストレートだから戸惑うことも多い。
嬉しい時のキス、ハグの雨ときたら。
ほんと、照れとか恥じらいとは無縁の世界で生きてる。
「(いいなあ・・・)」
弱さをさらけ出せるのは強み。彼が困っている姿を見ると助けたくなる。
かっこよくてチャーミング、頭が良くて優しくてスタイル抜群、ユーモアがあって愛されキャラ・・・。
次々に長所が頭に浮かんできてしまって、ブランケットを用意しながら苦笑する。
「あ、」
ここなは隠しとかないと。せっかくの休日、夜通しここな観賞はきつい。
その時チャイムが鳴って、あわててDVDをベッドの下に押し込んだ。
「はあい」
ワタシです、という声を聞いて鍵を開ける。
「いらっしゃいナギくん」
「どうしても会いたくて来てしまいました。ワガママを許してください」
中へ招いて「全然わがままなんかじゃないよ」と答えると、
「それを聞いて安心です」
とナギくんは笑顔を見せた。
「外、冷えたでしょ。コート預かるね」
ライトの下で気づいたけれど、白い頬がかすかに赤くなっている。
リビングの空気に触れると、ナギくんは「wonderful・・・!あったかい!」と口にした。
「ストーブのそばに座ってね」
「ありがとうございます。なまえもこっちへ来て一緒に座りましょう」
手招く彼に「お茶にする?それともコーヒー?カフェオレでもホットミルクでもいいよ」と尋ねると、
「まるでカフェのようですね。ではホットミルクを」
という答えが返ってきたのでさっそく準備をする。
いそいそとブランケットにくるまる姿に笑みがこぼれた。
あんなに大きいのに、可愛く見えるのはどうしてだろう。
「はー・・・あったかいです」
「はい、お待たせ」
「ありがとうなまえ」
聞いてください!と彼は身を乗り出した。
「どしたの」
「今日はものすごーく忙しかったんです!取材が3つに雑誌の撮影が2つ、それにラジオとテレビの収録も」
「おー、売れっ子じゃない。さすが今をときめくアイドリッシュセブン」
「売れるのは嬉しいですが、ワタシは世界にひとりしかいません・・・」
たしかにそうだ。彼の仕事量は日に日に増えている。
「1日お疲れさま。大変だったね」
「甘やかしてくださーい・・・」
寄りかかってくるナギくんを「よしよし」と抱きしめる。
「なまえに甘やかされる心地よさを知ってしまった以上もう戻れません・・・責任とってください・・・」
「責任て・・・おおげさな」
おおげさなんかじゃありません、と彼は首元ですりすりしながら答える。
「いやだと言っても離しませんよ」
「そっかーどうしようかな」
そういえばなまえ、と少し体を離してナギくんは尋ねた。
「明日は休みですか?」
「うん。休み」
すると、
「では、明日はなまえだけの六弥ナギになります」
と彼は笑顔で言った。
「え?どういうこと?」
「なんと!明日は1日オフ!」
「・・・うそ!?あんなに忙しかったのに!?」
ハイ、とナギくんは頷く。
「お休みをもぎ取るために頑張りました!褒めてください!」
「すっごーい、信じられない!頑張ったんだねえ」
「オフコース、アナタと一緒に過ごすためならなんだってします」
「でも・・・疲れてるでしょ?やっぱり休んだほうがいいんじゃ、」
「No、なまえは分かってません。ワタシがリラックスできるのはアナタの隣ですよ」
なまえと過ごす時間以上に特別なオフの使い方なんてありません、とナギくんは笑った。
「・・・そっか。嬉しい・・・」
「なまえ。今夜と明日はワタシとずっと一緒、嬉しいですか?」
もちろん、と私は彼の背に腕を回す。
あれ。
「ナギくん、お風呂入ってきた?」
「ええ、寮でシャワーを」
「そうなんだ。じゃあいつでも寝られるね」
「ハイ。でも、まさかまだ寝ないでしょう?」
それは・・・まさか、
「ここな観る?」
「なまえ・・・せっかくリアルの恋人と過ごす特別な夜に、さすがのワタシもここなを持ち込みませんよ・・・」
はー、とため息をつく恋人の姿がおかしくて思わず笑い声がこぼれる。
「そっか。ごめん、てっきり観るかと思って隠しちゃった」
「お望みならそれでもでもかまいませんが」
かまうかまう、とあわてて首を横に振る。
「さて」
ナギくんの腕がすっと通った次の瞬間、体が浮く。
「!」
「夜更かしはお肌に悪いですから、そろそろベッドへ行きましょうか」
でも、と彼は続けた。
「ベッドの中での夜更かしだけは多めに見てくださいね?」
 


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