将を射んと欲すればまず馬を射よ2



ああ、推しだと思った。きらきらしていて、とにかくかっこいい。
「東堂さんてすごく、」
「ん?」
「美形、なんですね・・・」
思わずそう呟くと彼はぽかんとした。そして、
「わっはっは!」
とおかしそうに笑う。
「いや、せっかく褒めてくれたのに笑ってすまんね!しかしキミは本当に面白いな。ここまで正直に感想を口にする子はオレのファンにもいないぞ」
その言葉にはっとする。そうだ、どこに東堂ファンがいるか分からない。月曜日に靴の中に画鋲が入っていたら大変だ。
「すみません、私やっぱり帰っていいですか」
「いきなりなぜ!?」
オレが何かしたかね、と東堂さんは焦る。
「そうじゃなくて、ファンの人がいないかちょっと不安で・・・」
「なんだそんなことか。安心してくれ、俺のファンはそんなに陰湿ではない」
ホントかよ、とつい疑ってしまう。
けれどそんなことなどお構いなしに、
「今日はなまえちゃんに聞きたいことがあるんだ」
と東堂さんは言った。
「聞きたいこと?」
「ああ。いろいろ、まずは巻ちゃんについてなんだが」
で、出た〜〜〜!巻ちゃん!だけどあいにく私もそんなに知らないんだよね・・・困ったな。
「さっそくだが、巻ちゃんは普段どんな練習をしていた?授業態度は真面目か?弁当派?それとも買い弁派?」
「は?」
弁当とかニッチだな。
「どうしてそれを知りたいんですか?」
「ん?巻ちゃんとの電話のネタにしたくてな」
「ああそういう・・・あ、でも田所くんのお店のパンが好きでよく食べてましたよ」
「おお、あのスプリンターの彼か!元気にしているかね」
「はい、みんなあいかわらず」
そうか、と東堂さんは笑った。
「では、さっそく行ってみるとするか」
彼が立ち上がったのを見て私も腰を上げる。
「それじゃ私は、」
「?一緒に行くだろ?」
「あ、はい」
一緒に行くのね。

***

頼む、田所くん今日は店番しないでいてくれ。説明がめんどくさいから。
なんて、こんな日に限って会いたくない人と会ってしまうことを知っている。
いやでもいないかもしれないと念じながら意を決して中に入った。
「いらっしゃ・・・あ?」
ですよねー。
「(はー終わった・・・)」
絶望だ。なんでアイツらがここにいるんだ、という目で田所くんがこちらを見ている。
そんなことなど微塵も気にせず、
「いい匂いだなーどれも美味そうだ」
などと言いながら東堂さんはパンを選んでいる。
「おい##NAME2##」
「ハイ・・・」
呼ばれたため仕方なく田所くんの所へ行くと「なんで東堂と一緒に来てんだ!?」と尋ねられた。
「いや・・・それが、」
かくかくしかじか、これまでの経緯を説明するとふうん、と彼は呟く。
「巻島のやつ、とんでもねえ置き土産してったんだな・・・」
「ありがとう理解してくれて」
その時、
「なまえちゃん!」
東堂さんが私を呼んだ。
「は、はいなんでしょう」
「巻ちゃんの好きなパンはどれだ?」
「ああ、えっとたしか・・・」
すると「これだよ」と田所くんが教えてくれる。
「おお、すまんね。ありがとう」
「買ってくれんなら文句はねえよ」
ついでだし私も揚げパンを買って行こうかな。砂糖ときな粉がたっぷりまぶしてあって美味しそうだ。
お会計を終えて店を出る。
「ありがとう田所くん」
「おう。またあさって学校でな」
よかった、さっき東堂さんにちゃん付けで呼ばれたことは気づかれていないみたいだ。
「さて、」
今度こそ解散の流れかな?そう思っていると、
「このあと時間はあるか?」
と聞かれた。・・・ヒマなんだよね。
「はい、まあ」
「なまえちゃんさえよければ一緒に食べたいと思うんだが。しかし、キミにも予定はあるだろう?今日は押しかけてしまったようなものだし」
無理しないでいいぞ、と彼は笑った。
ちゃんと気を遣ってくれるいい人なんだな。ちょっとびくびくしてしまっていたのが申し訳ない気持ちになる。
「いえ、ぜひご一緒したいです」
推しとのランチ、最高じゃないか。

***

河川敷のベンチに並んで袋を開く。ほわりと美味しそうな香りが鼻をくすぐった。
「なあ、もしなまえちゃんさえよければオレのサンドイッチと揚げパン、少しとりかえっこしないか?」
とりかえっこって!可愛いな推し。
そんな内心のはしゃぎっぷりはおくびにも出さず、いいですよーと答える。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、実はちょっと気になっていたんだ。・・・やはり美味いな!」
私は気になっていたことを尋ねた。
「箱学って学食あるんですよね?」
「ああ、あるな」
「いいなあ、なんか大学みたいですねえ」
まあそうかもしれんな、と東堂さんはうなずく。
話が途切れた。
まずい、なにか話題を・・・そうだ巻ちゃん!は聞かれても答えられないし・・・
「あの、」
「ん?」
「モテるために努力とかされてるんですか?」
ぽかんとしている。ああ、質問を間違えたんだなと悟った。
「そうだな・・・何事にも努力を惜しんではいないつもりだ。だが特別なことはしていないぞ?」
この美形も、睡眠をしっかりとってきちんとした食事を頂いているからこそ維持できている、と彼は語った。
「そういえば前に姉のフェイスパックを拝借したことがあるが、あまり効果は感じられなかったな」
なるほどー、と相づちをうつ。
「なまえちゃんは?」
「え?」
「モテるだろ?」
「いやいや、まさか!」
ホントかー?と東堂さんは私を覗きこんだ。近、推しが!近い!
「・・・好きなやつとかいるのか?」
「いませんねー。どうせあと少ししたら卒業だし」
そうか、と彼は呟く。
「東堂さんこそ彼女とかいないんですか?」
推しの恋愛事情、知りたいぞ。
「いない」
きっぱりと東堂さんは答えた。
「すごいなあ、やっぱりファンクラブを大切にしてるんですね」
「まあ、うん・・・そう、だな」
なんとなく濁して聞こえたのは気のせいだろうか。


- 21 -

*前次#


ページ: