Be quiet ブルース



窓を濡らす雨はやまない。
「別れた足でここに来るのいいかげんやめなさいよね」
ふたり分のカフェオレを置いた彼は「悪い癖よ、それ」と、うつむく私の隣に腰かける。
「ごめんなさい・・・」
続かない先を、分かってるとでもいうようにタイガーズ・アイはため息をついた。
「そんなんじゃいつまで経っても幸せになれないわよ」
大きな手があやすように優しく髪を撫でる。
彼の言うことは正しい。
それならどうしてドアを開けてくれるの、という言葉をいつも飲み込む。
受け止めてくれるのは彼が優しいから、甘えているのは私がずるいから。
「ごめん」
「こら。もういいの」
冷める前に飲みなさい、とうながすとタイガーズ・アイはため息を吐いた。
「・・・僕も、恋愛は上手くできないの。あんたと一緒」
「ペガサスが棲んでいないからでしょ?」
条件がなければ彼の恋愛はきっと成就する。
「タイガーは素敵な人だもん」
「なまえってホント、」
「!」
ぎゅむ、といきなり鼻をつままれびっくりする。
「イイ性格してるわ。僕が人間になったら覚悟してなさいよ」
「ぷは!・・・どういう意味?」
内緒、とタイガーズ・アイはぷいとそっぽを向いた。
「ねえねえ」
「しつこいオンナはモテないわよ」
「モテなくていい。もう疲れたから恋愛はお休みするって決めたの」
「それは好都合。あんたがフリーなら僕だって誘いやすいわ」
立ちあがった彼を見上げる。
「ショッピング行かない?雨も上がったわ」
窓の外に目を向ければ、雲のすき間から光が差しているのが見えた。
「・・・行く!」
メイク直したげる、とタイガーズ・アイは笑った。


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