あなたとルナティック番外編3



「さっむい」
ねーまだ帰んないんですか、とホークス・アイは声をかけた。
冷え切った夜の空気が白く染まる。
「あと5分だけー」
ふり向くことなく答えたなまえに彼はため息をつく。
散りばめられた星に惹かれる彼女をひとりにするわけもいかず、仕方なく厚着をして外に出た。
「ねえなまえちゃん。お願いですから部屋に戻ってホットワインでも飲みましょうよ」
「やだあホークス・アイさんたら、ちゃん付けなんて」
けらけらと笑うなまえの近くへ新雪を踏みしめながらやって来た彼は、刺さりやすいブーツのヒールに舌打ちをする。
「女の子は体を冷やすもんじゃないですよ」
「はい」
あらいいお返事、と言った彼に「あ、見て!」となまえは叫ぶ。
「オリオンですよ!」
「・・・それくらい見りゃ分かるっての」
鳥目じゃないんですかあ、と覗きこんだ相手の頬を「やかましい」と手のひらで挟みこむ。
「うわ、冷たい!」
「アンタのせいよ。ああアルコールが恋しい」
「ポケットに入ってないんですか、ほらなんかちっちゃいウイスキーボトルみたいなやつ」
「持ってるわけないでしょ!」
あーもうやめ、帰る、と彼は宣言した。
「僕は星よりジュエリーのほうが断然好き・・・あ」
ホークス・アイはなまえの手を取ると、
「この指に綺麗な宝石のついたリングを贈ったら、もうお外へ連れ出されることもなくなるわね」
と名案とばかりに笑う。
「え、・・・えー」
「なんです、いやなの」
いやっていうか、となまえは口ごもる。
「リングは欲しいけど、ホークス・アイさんと夜の散歩もしたいです」
「よくばりねえ。気が向いたらね」
体がシャーベットになっちまっても知りませんよ、そう言って来た道を戻る彼をなまえは追いかけた。


- 172 -

*前次#


ページ: