ハルちゃんとひとつ屋根の下



「あ、」
玄関の石畳に立つ見慣れた姿に声をかければ、
「おはよ、なまえさん」
と彼は爽やかな笑顔を見せた。
朝から水風呂を堪能する従弟を律義に待っていてくれる彼は本当にいい子だ。
「真琴くんはいい子だなあ」
しみじみと呟いた私に「俺もう高校生ですよ」と真琴くんは笑う。
「なまえさんは夏休みが長くていいなあ」
「大学生の特権だよね。だけどしがない居候なので」
しがない、なんていうのは冗談だけど、育ち盛りの従弟との生活を怠けたものにしたくはないので家事全般をかって出ている。
今日のお弁当はそぼろご飯、浅漬け、だし巻き卵、ほうれん草のおひたしとサバの塩焼き。
ちなみに朝食もサバの塩焼き、夕食はサバの塩麹焼き。・・・正直もう飽きた。
「冷蔵庫のサバがね、消費してるはずなのに増えてるの。不思議だね・・・」
「確かに・・・」
するとようやく、
「・・・おはよ」
と遙が顔を出した。
「おはよ、ハル。そろそろ行かないと、本当に遅刻しそうだよ」
ふわ、とのんきにあくびをこぼす彼の背中を軽く叩いてうながす。
「行ってらっしゃい、ハル。真琴くんも」
行ってきます、行ってくる、という声が重なって聞こえた。

***

「ハルちゃんのお弁当おいしそー!」
遙はきれいな箸使いで中身を口に運んだ。
「おいしい」
いいなあ、と渚は名残惜しそうに呟く。
「たしかにどれも美味しそうですね」
怜の言葉に遥は「昨日のおかずも入ってる」と答えた。
「愛妻弁当って感じがしますね」
愛妻、と真琴はくり返した。
「いい奥さんになりそうなイメージがあるよね?ハル」
「別に」
「別にって・・・」
怜は尋ねた。
「なまえって遥先輩の従姉なんですよね」
「ああ」
「やっぱり似てるんですか?」
「・・・さあ」
似てないんじゃないか、と遥は首を傾げてみせる。
「そうなの?僕も会ってみたいなあ」
ねーハルちゃんち行ってもいい?と渚は尋ねた。
「たぶん。いつがいいか聞いとく」
「やったー!」
「そ、それは僕もいいんですか?」
「?ああ」
「やったね、れいちゃん!」
はい!と彼は嬉しそうに頷く。
「ハル、俺も行っていい?」
「2人がよくて、真琴がだめなはずないだろ」
最後のサバを口に入れ、遥はふたたび無言になった。
怜は「あ、」と思い出したように問う。
「手土産はなにがいいでしょうか?」
「サバ」
「サバはもういいんじゃないかな・・・」



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