フラグを立てるな!2



こっちの私は帰宅部だった。
たぶん、勉強にフォーカスしてたんだろう。参考書とかもたくさん持ってたし。
とにかく放課後の時間を好きに使えるのはありがたかった。
日用品を片手にうきうき歩く。スーパーの帰り道は寒咲自転車店の前を通るコースだ。
これまでも何度か通り過ぎるふりをしてちらちらチェックしていた。たまに手伝いをしている幹ちゃんの姿が見えた時はゆっくりめに歩いた。まるで変質者だと我ながら思う。だからばれないように横目で見るようにしている。
店先にはロードバイクがきれいに並べられていた。
「(かっこいい・・・ピカピカだ)」
ロゴを見れば知っているブランドばかりだ。どれも10万はくだらないものばかりだと思うと、自然と喉が鳴る。
「いらっしゃいませ」
「ひえっ!・・・あ」
寒咲さんだ・・・!
「(か、か、かっこいい・・・!)」
わなわなしている私に寒咲さんはとんでもないことを言った。
「時々うちの店覗いてるよな」
完っ全にばれていた。もうおしまいだ・・・。
「興味あるのか?」
うなだれながら「はい」と神妙に答える。正確に言えばロードバイクに乗る部員にだけど。
「どおりでしょっちゅう来てるわけだ。その制服、総北だよな」
俺も昔は自転車競技部の部長をやってたんだぜ、と彼は言った。2年前ならぜんぜん昔じゃないと思う。
「うちの妹も今年受けるつもりなんだ。後輩になったらよろしくしてやってくれ」
「あ、は、はい!」
あのビューティフル少女が後輩になるのか・・・総北もいいけど、全国美少女コンテストとかに応募してもいいんじゃないだろうか。
「にしても、こんなに暗いのにひとりで帰るのか?」
空を見上げる寒咲さんの問いに私は平気ですよ、と答える。
「まだ18時前ですし」
「夏ならともかく今は冬だろ。送ってく」
「へ」
寒咲さん今、送ってくって言ったの・・・?優しさのかたまりか。バファリンじゃないか。
「おい幹ー!」
はーい、と奥から声がして、
「呼んだ?」
と美少女が顔を出した。可愛い・・・天使の化身じゃん・・・。
「一緒に来てくれ、この子送るわ」
天使と目が合って軽く頭を下げる。彼女はにこっと笑ってこんばんは、と言ってくれた。可愛い。
「あの、すいません。ありがとうございますわざわざ」
「気にするなって。またいつでも来てくれ」
天使か・・・。

***

授業を終えて購買に行こうとしていると、今日は買い弁?と声がかかる。
「いつも手作りなのに珍しいね」
あははーそうなんだ、と適当にごまかす。勉強と家事で手いっぱいの毎日、手を抜けるところは抜きたい。
急いで階段を駆け降りる。
「(やばい、出遅れた・・・!)」
案の定、購買部の前には人だかりができていた。だめだなこりゃと思いながら、必死にかいくぐって前に出る。
「おばちゃん、コロッケパンふたつー!」
「あんパンちょうだい!」
「おにぎり、梅とシャケ!」
私も負けじと叫んだ。
「「カツサンド!」」
声がかぶった。ん、と思って隣を見る。
「(この子は・・・青八木!)」
思っていたよりもずっと小柄だ。気まずそうな顔をしている。
購買のおばちゃんは「ごめんねえ残り1個なの」と困ったように言った。
「じゃあ、」
「なら俺やきそばパンにします」
あっという間の出来事だった。ぽかんとしている私の横で彼はお金を払って抜け出す。
「はい、カツサンド」
「え、あ、はい!」
パンを受け取るとあわてて青八木の背中を追いかける。
「あの、ありがとう」
「・・・いえ」
振り返った彼は、先輩なんで、と言った。
「ごめんね」
返事の代わりにぺこ、と頭を下げて青八木は行ってしまった。
寒咲さんに続いて青八木とも会話できるなんて・・・胸がじーんとする、これが感動か・・・。


一方、青八木。
「あれ?今日はカツサンドの気分なんじゃなかったのか?」
「先輩とかぶったから譲ったんだ」
焼きそばパンも好きだからかまわない。いや、パンの種類はこの際どうでもいい。
初めて見る顔だった。だからきっと同級生じゃない。
可愛かった。
「へえーえらいじゃん。なあ、今日は天気がいいし中庭で食おうぜ」
純太の言葉に俺は頷いた。次も購買に行ったら、また会えるだろうか。


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