フラグを立てるな!3



「終わった・・・もうだめだ・・・」
正確に言う、テストはやばかった。
公式、文法は必死にやったけど暗記モノまでやりきる余裕はなかった。
「俺たちは金城ん家で勉強会やったんだ」
「へーそうなんだ・・・」
田所くんは「なんだよ、暗いな・・・」と顔をひきつらせる。
「いーじゃねえか別に。お前は地頭がいいんだから、高得点じゃなくてもそこそこ取れてるって」
今回の目標が赤点回避だなんて言えない。
案の定、担任に呼び出された。
「##NAME2##ーどした?急に点数落として」
「いやあ、いろいろありまして・・・」
いろいろ以上だよ、と心の中で続ける。高校生もテストも久しぶりなんだからむしろ大健闘だよ。
「志望校、洋南か明早だったろ?模試の判定はいいんだから次は頑張れよ」
なに・・・?聞いたことある学校名に思わず眉間がひくつく。
洋南は金城と荒北、明早は福チャンと新開の進学先のはずだ。
追試の案内をもらって職員室を出ようとした時だった。
「巻島ァ。おまえいいかげん髪色直してこい」
呼ばれた名前に思わず振り返る。
「(巻ちゃんがいる・・・)」
リアルで見るとすごい髪色だ。アニメでは緑だったけど、玉虫色と呼ばれる意味が分かる気がした。
ぼそぼそと言い訳をして、お説教を終えた巻ちゃんがこっちへやって来る。
「お、」
見下ろす視線と目が合った。
「オメエがここに呼び出しくらうなんて珍しいな」
「えっ・・・と」
「・・・まさか、俺のこと忘れたンかよ」
1年の時同じクラスだった、と言われて、
「い、いやー覚えてる、覚えてるよもちろん!」
とあわてて答える。
心の中では「そうだったのか・・・」だ。
「(何を話せばいいんだろう・・・)」
冷や汗だらだらの私に巻ちゃんは言った。
「校庭の隅で子猫飼ってた時以来だな」
「そうなの!?」
「?いやオメエがだろ」
あっそうなんだ。何やってんだ1年の私・・・ていうか子猫はどうなったんだろう。
「まァたこの頭で呼び出されちまった・・・ったく、やんなるッショ」
生のショだ!すごいすごい!!
興奮している私の隣で巻ちゃんはため息をついた。
「私は好きだけどな、髪の色」
「あ?」
「レースの時、風になびいてきれいだよ」
「見に来たことあったか?」
アニメで見た、とは言えない。
「まあ、うん」
フーン、と言って巻ちゃんはがしがしと頭を掻いた。
「・・・変なやつッショ」
「褒め言葉として受け取っておくね」
巻ちゃんはクハッと笑った。ありがとう、ご褒美です。

***

赤点は追試でどうにかカバーした。
親に報告した時は驚かれたけど、「次は頑張るから!」と勢いでごまかした。こうなったら次の期末は巻き返すしかない。
実家で過ごす冬休みはびっくりするくらい元の世界と似ていた。
美味しいご飯、あったかいお風呂、なんて贅沢なんだろう。ありがとうを連呼していたらお母さんに怪訝な顔をされた。
新学期が始まる2日前に戻ったアパートは、なんていうか寒かった。
そりゃそうだ、ずっと暖房つけてなかったからね。むしろあったかいほうが絶望するわ。
「・・・あ」
冷蔵庫の中身がすっからかんだったのを思い出し、ああーと天を仰いだ。
エアコンをつけたまま、家には入らずに買い物に出かける。
さむ、と無意識に口からこぼれた。
「(今夜は鍋にしよ)」
年明けのスーパーにはおせちの残りが割引きで並んでいる。作るの面倒だしこっちでもいいかなあ。
売り場で悩んでいると、「あの」と後ろから声がした。
「え?あ・・・」
青八木!と叫んだ。心の中で。
「こんなところで会うなんて偶然だね」
本当ならガッツポーズをしたいのをぐっとこらえて話しかける。
「お、ぼえてたんですか俺のこと」
「うん。この前はカツサンドを譲ってくれてありがとね」
青八木はかすかに驚いた顔をした。
「あの、俺、青八木一って言います」
自己紹介イベント・・・!
「私は##NAME2##なまえです。よろしくね、青八木くん」
「っはい!」
やったー!という単純な気持ちと、いいのかこれで、という疑念が半々だった。
深く関わって彼らの未来が変わるきっかけにはなりたくない。バタフライエフェクトという言葉がちくりと胸を刺す。
だけどこれだけは言わないと。
「青八木くん。よかったらカツサンドのお礼がしたいんだけど」
「お礼って、俺は別に譲っただけですから」
そういえばそうだった。だけど口にした手前、引きさがるのもなんか格好悪い。
「そう言わずに。なんにする?」
しかし彼は頑なに首を横に振る。しつこいぞ青八木。
「なら、」
「うん」
「また声掛けていいですか」
予想外の言葉に固まる。
「あ、うん・・・」
今度こそぱあっと青八木の顔が明るくなった。
「それじゃまた学校で」
律儀にぺこっと頭を下げ、答えを待たずに行ってしまった。
呆気にとられている私を残して。


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