東堂ホットライン1



コール音が続く。
”・・・もしもし”
「おお巻ちゃん!ようやく電話に出てくれたな!」
しつけえんだよ、という気だるげな声に笑みがこぼれる。
「ワハハ、あいかわらず辛らつだな!」
”ったくオメーは・・・ほんとそういうとこ変わんねえなあ”
「実は、巻ちゃんに報告したいことがあるんだ」
”報告ゥ?”
「ああ。どうしても1番に伝えたくて、つい我慢できずに何度もかけてしまった」
時差とか考えろよな、という声にはっとする。
「そうだ、時差の存在を忘れていた」
”もういーわ”
「そう言わずに聞いてくれ巻ち」
”だーッから、いいってのは時差の話!んで?用ってなんショ!?”
ひとつ深呼吸をする。そして告げた。
「実はな巻ちゃん。・・・俺たち、結婚することになった」
電話の向こうで息をのむ音がする。そして、
”マジかよ!すげえじゃねえか東堂!”
「うお、」
予想外の大声に思わず電話を離した。
「マジもマジ、大マジだ」
”とうとうやったな。おめでとう”
「ありがとう巻ちゃん・・・祝ってもらえてすごく嬉しいよ」
”祝うに決まってんだろ。でも、東堂と結婚するなんてなまえちゃんも物好きだよなあ”
俺は「ずいぶんな言い草だじゃないか」と苦笑する。
「しかしプロポーズというのは、その・・・やはり緊張するものだな」
へえーと巻ちゃんのニヤついた声がした。
”派手好きの東堂だからプロポーズも盛大にやったんだろ?フラッシュモブみたいなやつとか”
「フラッシュモブ?なんだねそれは」
”なんか大勢でダンスしたり、盛大なサプライズ的なやつ”
「ふうん、そうなのか。ちなみに俺はいたってシンプルだったぞ」
”どんな?”
どんなって、となぜか言葉に詰まる。
「それはその・・・ごく一般的なやつだ」
”だからどんな?って聞いてるんショ”
くそ、巻ちゃんのやつ俺を追い詰めて遊んでるな。
「だから、お・・・俺と結婚してほしいと、そう言っただけだ」
”おお・・・なんつーか意外ショ”
「そう言ってくれるな。なんか恥ずかしくなってきたぞ」
ちなみに山の上で、と付け加えると「ハァ!?」と叫ぶ声がした。
”やっぱバカだろオメー”
「なっ、ひどいぞ巻ちゃん!」
”せっかくのプロポーズがなんっで、よりにもよって山になるんショ!”
「俺は山神だぞ!俺にとって山頂は特別な場所なんだ」
ハァーと重いため息が聞こえる。
”それでなまえちゃんなんて?”
「それは・・・まあ、いい返事だったよ」
”へえー。ご馳走さまッショ”
式には来てくれるだろ?と言えば、「呼んでくれンのか?」と返ってくる。
「当たり前だろう!人生の門出におまえがいなくてどうする!」
”いや言い方。ま、楽しみにしてるッショ”
長電話もワリィしいったん切るわ、と巻ちゃんは言った。
”とにかくおめでとさん。日取りとか決まったら教えてくれ。んじゃな”
「ああ。ありがとう」
通話が切れたことを確認してほう、と息を吐く。
吉報を誰よりも先に告げたいと思った相手はかつてのライバルだった。
もしかしたらそれは、彼女に想いを告げた時に見えた懐かしい景色のせいかもしれない。
「・・・俺は世界一の幸せ者だな」


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