フラグを立てるな!3.5(青八木)



言ってしまった。やってしまった。
「(何やってんだ俺・・・!)」
バイクのそばにしゃがんで頭を抱える。
だいたいなんだ、お礼にまた声掛けていいですかって。キモい、キモすぎる。
すごい戸惑ってる顔してたし絶ッ対引かれたに決まってる。勢いだけで言ってしまった自分がこわい。
「よ、青八木。どした?」
「純太・・・俺はもうだめかもしれない」
「どうしたんだよ・・・すげえ顔色悪いぞ。なんかあったのか?」
サドルに腰かけドリンクを開ける純太に俺は頭を振った。
「なんでもない」
「嘘つくなって。まあ別に無理に話せとは言わねえけどさ」
思い切って俺は聞いてみた。
「純太は、気になる相手とかいるか」
「へ?・・・はァ!?」
悩みってそっち系、と純太は驚いた顔をする。
「マジで?」
「そういうんじゃない、と思う」
「え、ちげえの?」
好きとはっきり言えるほど相手のことを知らない。というか名前しか知らない。
「どうなんだ純太」
「え、俺?今は別にいないけど」
「そうか」
「お前は?」
聞き返され、今度こそ返事に詰まった。
「俺は・・・」
覗きこむ純太のまなざしを見て我に返る。
そうだ、俺たちには今年のインハイがある。集中しないとだめだ。
「・・・やっぱりなんでもない。大丈夫だ」
「えーほんとか?の割にはさっきすげえへこんでたけど」
「それは、!」
お前の分、とふいに差し出されたドリンクをびっくりしつつ受け取る。
「ありがとう、純太」
「いーって。どんな悩みか分かんねーけど、走ったら忘れるさ」
そう言ってバイクにまたがった純太に倣う。
「負けたほうが肉まんおごりな!」
「分かった!」
顔が熱くなる気まずさを振り払うように、俺はペダルを漕ぐことにひたすら集中した。


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