悠人



##NAME2##なまえ、先輩。
高校時代の隼人くんが好きだった人だ。
直接聞いたわけじゃない。けど、話し方で分かる。
あの人の話をする時、隼人くんは優しい表情をする。たまに集合写真なんかを見せてもらうと、決まって隣に写っている。
自転車競技部のマネージャーで、いつも一生懸命で、優しくて楽しい。
話したこともないくせに、俺はなんだか自分でも知っているような気持ちになっていた。
だけど隼人くんは好きだとも言わないまま卒業していった。
・・・だったらさ。
俺がもらってもいいよね?

***

新年度。
予想していたことがさっそく起きてしまった。
新開悠人。入部早々、彼は話題の中心だった。
原作を全部知っているわけじゃないから気持ちを汲み取ってやることもできない。それに、その役目はきっと私ではないはずだ。
だとしても彼の問題児ぶりは目に余るものがあった。
「聞いたか?新開のこと」
「こないだのレースだろ。すごいよなあいつ、1年なのに」
口を開けばみんなが噂をする。いいことも悪いことも全部。まるで針のむしろだ。
兄の時はこんなことはなかった。彼の残した実績、人望があの子の肩に期待と嫉妬を背負わせている。
なんとなく、ため息がこぼれた。
自己紹介の時のことを思い出したから。


「29、30・・・」
泉田が指示を出し直している間、私はボトルの準備をしていた。
数は間違いない。重いし、分けて運ぶか。
すると、
「こんにちは」
「ん?」
「はじめまして。##NAME2##先輩ですよね。俺、新開悠人って言います」
めちゃくちゃ知ってる。何度もアニメ観たし本も読み返してたから。
「先輩のこと、隼人くんからいろいろ聞いていて」
「えっうそ、そうなの?」
なに話してんだあの人。去年はいっぱいいっぱいすぎて珍エピソードいろいろ作っちゃったからなあ・・・。頭が痛い。
それにしても、近くで見ると彼は兄とおんなじ顔をしている。最強の遺伝子だ。
「一生懸命サポートしてくれたって言ってました。優しくて面白い人だって」
「ああ、そうなんだー・・・」
やっばい。思わず口癖が移ってしまった。
新開悠人はにこっと笑って言った。
「これからなまえ先輩って呼んでもいいですか?」
「だめ」
「なんでですか?」
「他の部員にしめしがつかなくなっちゃうから。泉田も黒田も名字で呼んでるんだよ」
「じゃあ普段は2人とも名前で呼んでるんですね。いいなあ」
「まあ同学年だしそこは」
「なら、ふたりきりの時だったらいいですか?」
なんでだよ。
「ふたりきりって・・・なんないでしょ」
「分かりませんよ。現に今がそうですし」
「えっ」
いや、でも向こうに葦木場たちがいるしやっぱりノーカンだ。遠くで黒田が手を振っている。
「悠人くん、集合かかってるよ」
「行きますよ。あーでもショックだな」
「なにが?」
「##NAME2##先輩、俺と話すの好きじゃないみたいだから」
「別にそういうのじゃないって」
「冗談です。それじゃ」
そうだ、と彼は振り返る。
「悠人くんって呼んでくれるのは大歓迎です」
姿が見えなくなってからため息をついた。知ってるつもりだったけど、やっぱりあの子は新開くんとはちがう。
「調子狂うなあ・・・」

***

拍子抜けだった。
隼人くん、なんであの人のことが好きだったんだろ。
別に特別な何かを持ってるわけじゃない。部員からは信頼されてるみたいだけど、それだけだ。
なんか、がっかりだな。
でもまあ、やっぱり顔はちょっと可愛いかった。
「(見た目は割と好みなんだよな)」


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