ハートは燃えているか



カルディアの心臓に残された時間は、もうそれほど長くはない。
しかしその鼓動は、今まさに燃え尽きようとしている流星の一瞬のきらめきのように、熱く激しく脈打っている。
時には四肢がちぎられるような痛みをこらえながら戦って勝利を得た瞬間、彼の心は喜びで震える。
しかし、その器が満たされるのは、恋人のひたむきな愛情に触れた時だけだった。

***

苦しみ出したカルディアのためにどうすることもできず、なまえは最初、そのたびに絶望の淵に立たされたように感じた。
ある時、彼の親友が落ち込んでいるなまえの背に「あまり思い悩むな」となぐさめる。
するとふり向いた彼女は押し殺していた感情をとうとう剥き出しにして叫んだ。
「どうしてそんなことが言えるの!?デジェルは、カルディアがいなくなってしまうことが・・・こわくないの・・・?」
最後は涙に飲みこまれてしまった問いに、黙っていたデジェルはやがて答える。
「そんなこと、考えたくもない。でも、目をそらすことはもっと怖ろしい」
カルディアの運命から目を反らすことは、カルディアと向き合うのをやめることにも等しいのだとデジェルは言った。
「なまえ、聞きなさい」
彼はとめどなくあふれる涙の軌跡をひたすらにぬぐってやりながら、優しく諭す。
「カルディアがどれだけ君のことを愛しているか知っているか」
「デ、ジェル」
「たとえ聖闘士として生きることを選ばなかったとしても、彼の心臓は燃え続けるだろう。愛する者たちを守るために先に逝くことを選んだカルディアから、どうか目をそらさないでやってくれ」
なまえは目を閉じて、ひたすら彼の声に頷く。
愛するカルディアが選び、受け入れた運命を、自分が否定して良いはずがない。
何度もそう言い聞かせ、そして、なまえは彼のために憂うことをやめた。

***

カルディアの手は温かい。
熱を帯びた瞳はありあまる生命力に満ち溢れているようにさえ思える。
この人と同じ時間を共に歩んでいきたいと、どれだけ願ったことだろう。
けれど、きっとそれは叶わない。
「なまえ、俺を見ろ」
俺だけを見ろ、とカルディアは切なく請う。
「カルディア、私のカルディア。愛してる」
慈しむように両腕の中に閉じこめると、彼はなまえが愛を紡ぐ声さえも惜しむように、柔らかな唇を塞いだ。


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