twinkle twinkle little star.



そろそろ22時ですよ、と時計を見上げたムウは言った。
「貴鬼。ベッドに入る時間です」
ええっ、と顔を上げた彼は、
「でも・・・ムウさま、オイラまだ全然眠くないんです」
と控えめに主張する。
その隣でシオンも「そうだぞムウ」と唇をとがらせた。
「せっかく孫弟子と過ごす夜なのだ、良いではないか」
「シオン・・・あなたがそういうことをおっしゃるから、しめしがつかないのです」
この手のやりとりをもう何度もくり返しているムウは頭が痛くなる。
「たまの機会なのだぞ、少しくらい」
「ですからそういうところが」
堂々めぐりのまま時間が過ぎていくことを察したなまえは、
「じゃあ30分だけっていうのはどう?」
と思いきって提案した。
「なまえ・・・あなたまで」
眉根を寄せる恋人に苦笑しながらだってね、と説明する。
「こんなに目が冴えてるんだから、たぶん眠るまでにそれくらいかかるんじゃないかな」
「頼む、ムウよ」
「ムウ様・・・」
「ああもう。分かりました、分かりましたよ」
ため息をついたムウは、「今夜だけですからね」と優しく言った。
「やったあ、シオン様!」
「良かったな、貴鬼」
はしゃいでいるふたりの微笑ましく眺めていると、
「まったく・・・あなたもシオンも、貴鬼には甘いんですから」
と言われてなまえは笑って答える。
「一番はムウなんじゃない?」
「おや、それはいけませんね。弟子にそう思われないよう厳しく接しなくては」
えっ、とびっくりして口元を押さえたなまえに彼は、
「・・・なんてね」
と小さく笑った。
「もう。貴鬼くんはムウのことが大好きなんだから」
「それなら嬉しいことですが・・・あ、」
流れ星、とムウは呟く。
「え?どこ?」
「あそこをすうっと流れていきました」
なんと、と顔を上げたシオンは窓辺に身を乗り出す。
「どこだ、ムウよ?」
「そうぽんぽん流れてしまっては夜空が真っ暗になってしまいますよ」
師匠の様子に呆れたように彼は言った。
「流れ星、オイラも見たかったなあ」
残念がる弟子に対し、ムウはしゃがんで「ねえ貴鬼」と話しかける。
「あなたが毎日がんばって修行をすれば、きっといつでも見られるようになれますよ」
「本当ですか、ムウ様!」
アリエスの技のことだな、とシオンはなまえにそっとささやいた。
「え?」
「スターライトエクスティンクション・・・力強く美しい、牡羊座の黄金聖闘士が誇る技よ」
彼の答えを聞いてなまえは納得する。
それからしばらくして、ムウは尋ねた。
「ところで貴鬼、今は何時ですか?」
「えっと、あ!」
22時半です、と彼は素直に答えた。
「約束の時間になってしまったな。よし、貴鬼よ」
今度こそ一緒に寝るとするか、シオンは軽々と彼を抱き上げる。
「さあ、ふたりにおやすみを言いなさい」
「はい。おやすみなさい、ムウ様、なまえお姉ちゃん」
「おやすみなさい、ふたりとも」
「おやすみ貴鬼くん、シオン」
彼らがいなくなった後、ムウは穏やかに言った。
「あなたと過ごす時間が30分遅くなってしまいましたね」
「うん。でもいいの」
ムウと同じくらいには彼らのことも大好きなのだ。
もっとも、それは恋人という感情とは異なるものだけれど。
なまえは彼の腕にそっと触れる。
「あの・・・今日は一緒に寝たいなって。だめ?」
「だめ、なんて言うと思いますか?」
恋人の腕の中でなまえは彼を見上げた。
そうして静かにふたりの距離が近づいた瞬間、
「忘れ物をした!」
といきなりドアが開く。
「・・・!」
「・・・シオン」
すまんな、と彼は悪びれる風もなく謝る。
「ナイトキャップ、これがないといけなくてな。ところでお邪魔だったか?」
シオン、とムウがこめかみをひくつかせるのを見て彼はにやにやと笑みを浮かべた。
「それでは、良い夜を。・・・おやすみ」
ゆっくりと閉められていくドアを見つめながら、ムウは呟いた。
「まったく、我が師にはかないませんね・・・」


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