ピカデリー18時



18時にピカデリーで。
約束よりすこし早く来てみたものの案の定誰もおらず、やっぱりねと思いながらオレンジ色の街灯の下で待つ。
行き交う人たちを観察していると、やがて優雅にこちらへやってくる姿に気がついた。
手入れされた巻き毛を揺らしてミスティは、
「待った?」
と尋ねる。
「ちょっとね。私がいるのが見えた?」
「もちろん。なぜ?」
「のんびり歩いてたから」
そう言うと、彼は笑って答えた。
「恋人との距離が近づくのを楽しんでいたのさ」
そうにらまないでくれ、とミスティはさりげなく頬にキスをする。
「!もう、」
「なに?」
「人前だから・・・恥ずかしい」
「あいかわらずシャイだな。まあいい。そういうところも可愛らしい」
他人の視線など気にもしないミスティは、どこだろうとふたりだけの時のように振舞う。
さすがに黄金聖闘士や女神の前ではしないものの、外でデートをする時などなまえはどきどきさせられっぱなしだった。
「さ、行こうか」
差し出された腕に触れ並んで歩き出す。
「今日はどこへ?」
「私の好きな店でディナーを。そのあとは特にない」
すれ違う人たちが次々と、ミスティの横顔に吸い込まれるようにふり返る。
「なまえはどうしたい?」
「考えてなかった・・・けど、あんまり遅くまでは起きていられないかも」
今日の執務はいつもよりもハードだった。
書類の整理になんとか区切りをつけるべく孤軍奮闘したのだ。
レストランに着くと、ふたりは窓際の静かな場所へ案内される。
豪華なシャンデリアは、あくまでも料理や雰囲気を引きたてるためのもので、そればかりが目立つことはない。
テーブルの上には白い薔薇が飾られている。
「素敵・・・」
うっとりとしたため息をついたなまえの前で、ミスティは満足そうに微笑んでいる。
運ばれてきたワインを片手に、愛してる、と彼は言った。
「自分と同じくらい、私は君のことが好きなんだ」
冗談のように聞こえる言葉も、なまえにはその意味が分かっている。
「ありがとう。私もミスティが大好き」
「愛してる?」
「もちろん」
「君のことは?」
ミスティほどじゃないけど、となまえは正直に答えた。
「ね、ここのお料理ほんとにおいしいね」
「ああ。美味しいものを食べる行為は美しいと思わないか」
君は今、最高にセクシーだよ。
アルコールでほんのり頬を染めたミスティはそう言って笑った。


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