プラネット・ブルー



あれはシリウス、あれはプロキオン。
ムウの指先が示す先には、強い光を放った星が散らばる。
なまえは感嘆したように呟いた。
「よく知ってるね」
「これでも牡羊座の聖闘士ですからね」
そう言って笑った彼は「ふたりとも、寒くはありませんか」と尋ねる。
ムウとなまえはココア、貴鬼は蜂蜜入りのホットミルクの入ったマグカップで手元を温めていた。
「はい、ムウ様!」
ふうふうと冷ましながらカップに口を付けていた少年は、満面の笑顔を浮かべて答えた。
「そう、なら良かった。風邪をひいては大変ですから」
マフラーの上からストールを巻き、さらに真っ白な毛布まで身につけている彼はもこもこしていてまるで本当に羊のようだった。
「なまえ、あなたは?」
「私は大丈夫」
「そうですか。それは良かった」
彼はそっと、
「本当はもっとこちらへ来てもらえると嬉しかったんですけどね」
とささやく。
「ムウ・・・やっぱり少しだけ寒いかも」
「ふふ。どうぞ」
毛布を広げたムウの隣になまえは身を寄せた。
「あったかい」
「ええ。本当に、いつまでもこうしていられたら良いのに・・・」
吐息が白く、冬空に溶けてゆく。
見えないとしても、同じ使命を帯びた彼らを表す星座も等しく輝いているのだと思うと、夜の光が愛しい。
なまえは恋人の横顔をそっと見上げる。
「どうしました、なまえ」
「ううん。・・・なんでもない」
ふたりの間に流れる恋人の空気を察したのか、貴鬼は「オイラ先に部屋にいます」と言って窓をくぐった。
「気を使わせてしまいましたね」
「貴鬼くんに悪いことしたみたい・・・」
まあ良いでしょう、とムウは笑う。
「どちらにせよ、そろそろ休ませるつもりでしたから」
厳しくも愛情深い師の元で、あの小さな男の子もいつか立派な聖闘士になる日が来る。
「貴鬼くんがどんな風に成長するのか楽しみだね」
「本当に。なまえ」
「ん?」
「その時が来るまで、そばにいてくれますか?」
ムウの澄んだ瞳が、まっすぐになまえを見つめて言った。
「もちろん。・・・でも」
「でも?」
「貴鬼くんが大きくなったら、一緒にはいられなくなるの?」
「そんな心配はしないで。どうかいつまでもずっと、私の隣にいてください」
「ムウ・・・嬉しい」
「まさかこんな形でプロポーズすることになるとはね。いつか、ここにその証をはめる日まで待っていてくれますね?」
そう言ってムウはなまえの左手を取ると唇を寄せた。
「ムウってば・・・」
頬が赤いですよ、と笑ったムウはそっと額を寄せる。
「そろそろ戻りましょうか」
ゆっくりと唇が重なる。
深い愛情が、静かに心を満たしていった。


- 109 -

*前次#


ページ: