morning glory.



「寝てていいんだぞ」
ハンドルを握るミロが声をかける。
助手席でまぶたをこすりながら「大丈夫、起きてる」と答えると、
「いいから寝ておけ。肝心の瞬間に寝られでもしたらもったいない」
と笑った。
「そんなことしないよ」
「そうか?ならばいいが」
4時前の世界はまだ夜に包まれている。
誰の気配もない静かな街並みを通ってやがて郊外へと出た。
すこしだけ窓を開けて外の空気を吸う。
「・・・いい気持ち」
そうだな、とミロは前を向いたまま言った。
「あとどれくらい?」
「もう着いた」
車を停めて降りると私の手を引いて歩きだす。
「どこまで行くの?」
「すぐそこだ」
先ほどよりも白んだ空を見上げて彼は足を速める。
そして、
「ここでいいか」
と振り向いた。
急に視界が開けたその場所へ朝がやってくるのが見えて思わず息を呑む。
「すご、」
黄金が空を覆い、闇が光に染められていく。
ひんやりした風が静かに吹いて私たちの髪を揺らした。
すごいだろ、とミロは呟く。
「うん・・・すごい。感動した」
「俺はこの光景を見るたびに思うんだ。なにがあっても、この美しい世界を護らなくてはならないんだと」
アテナが愛し、護ると誓った地上を。
「もちろんなまえのことも」
ミロの手が私を強く包んだ。
「私も。自分にできることがあるなら」
「あたりまえだ。お前がいるから、俺は強くなれる」
朝焼けで輝く髪をなびかせて笑う彼の姿が、胸に焼きついて離れない。


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