エイプリルフールネタ



「・・・というわけで」
「なにがだ」
いらいらしたようにデスマスクは舌打ちをした。
「お前は話を聞いていなかったのか?」
呆れたような口調のサガに対し彼は「聞いてたからだよ!」とわめいた。
「サガ、悪いが我々も誰ひとり理解できていないんだが」
困ったようにアイオロスが言うと他の者たちも頷く。
「だいたい書くことなんかないぞ?」
「小説?それともエッセイか?」
「しょうもない日常か生死に関わる瞬間のどちらかしかないんだが」
サガが「テーマならなんでもいい」と言うと、
「それが一番困る」
とブーイングが起こる。
「そうだそうだ。だから夕飯のおかずを作る時だって困るんだぞ」
「私がいつミロに夕食を頼んだ」
じゃあサガは何について書くんだ?とアフロディーテは尋ねた。
「そうだな。私はもうタイトルも決めてある」
「早いな。というと?」
「コホン。・・・”ジェミニのサガと行く秘湯・名湯100選」
正気か、とシュラが呟く。
「誰が買うんだそんなもの・・・」
「あなどるな、これでも温泉マイスターの資格を持っている。では各自で考えてくるように、解散!」
その投げやりな注文に誰もがため息をついた。

***

それから数日後。
ふたたび集められた広間でアルデバランは隣人に声をかける。
「ムウ」
「おや、アルデバラン。どうしました」
いや、と彼は困ったように笑う。
「もう内容は決まったのかと思ってな」
「ええ、まあ一応は。せっかくアテナからいただいたお話ですからね」
「本当か?参考までに教えてくれないか」
きっと参考にはならないと思いますよ、とムウは前置きすると、
「How to 修復(復讐)です」
「ん?」
「なにか?」
「今なにか別の単語がくっついていなかったか?」
「鋭いですね。これでもいろいろと押しつけられているものですから・・・ね」
アルデバランの背にぞっと寒気が走る。
「そ、そうか」
「あなたは?」
「俺は料理が趣味だから、肉をメインにした料理本にしようと思っている」
「おや良いですね。一冊予約しましょうか」
「嬉しいことを言ってくれる。そうだな、”おいしいお肉の本”とでもしようか」
「タイトルに難ありですかね・・・シャカ、あなたは?」
私かね、と彼は小首を傾げてみせる。
「私も食に関心があるので、自分の好物についてまとめようと思っている」
「はあ」
デスマスクが呆れたように「食い倒れ日記とかそんなんでいいだろ」と言った。
その時サガが現れて、
「全員、本の中身は考えてきたか?」
と尋ねた。
「じゃあまず自分から。いいか?サガ」
「もちろんだ、アイオロス」
「パズルブックにしようと思っているんだ。数独とかクロスワードなんかを自分で作ってみたい」
「ほう、意外なところから攻めてきたな」
「ああ。これなら誰もかぶらないだろう?」
頷いたサガは「アイオリアはどうだ?」と彼を見た。
「えっ、俺か!?」
しどろもどろのアイオリアだったが、ぼそぼそと「自分の聖闘士までの道のりについて書こうと思っている」と答える。
「おお、いいな。自叙伝というわけか」
「そんなにすごいものではないぞ」
「タイトルはどうする?」
「”千里の道も一歩から”とかはどうだろう」
すると誰かが「ちょっとひねりがほしいな」と口にした。
「では”獅子座ダイアリー”とかはどうだね?」
シャカの思いつきにぶふっとシュラが吹き出す。
「て、適当すぎるだろ・・・!」
「くっ、シャカめ覚えていろ」
「?」
では次、とサガがうながすと童虎が手を上げた。
「童話にしようと思っている。タイトルは”儂はカンフーマスター”、どうじゃ!」
「童話とは目のつけどころが良いですね」
「ミロは?」
「俺は三部作だ!”ベビー・シッターとオムツのごみ”、”ベビー・シッターと子供の部屋”、”ベビー・シッターとお留守番の隣人”」
思いっきりパロディではないか、とカノンは呆れる。
「そのうち版権元から訴えられても知らんぞ」
「というかそんなに書く気があるのか?」
冷静なカミュのつっこみに彼は「うっ・・・」と言葉に詰まる。
「じゃあカミュは何について書くんだ?」
「ふっ。”シベリア日記ー弟子と歩んだ365日ー”を書こうと考えている」
その本気をうかがわせるまなざしにミロは「あ、そう・・・」と呟いた。
「シュラ、オメーは?」
「俺か?そうだな・・・タイトルは”秘剣、極まれり”とでもするか」
「官能小説かよ」
デスマスクのつっこみに、
「なっ、じゃあ貴様はどうする!」
とシュラは叫んだ。
「あーうるせえ。俺はあれだよ、女の写真集。なんか適当に”蟹とボイン”とかそんなん」
「ふん、貴様の存在と同様下品極まりないタイトルだな」
「そんなふざけた本を出版させると思うか?ところでカノンは決めたのか」
もちろんだ、と彼は胸を張る。
「長いこと書きためていたブログをようやく集約させる日が来た、というわけか・・・」
「えっ、お前ブログをやっていたのか?」
「実はな。”男は黙って海!総集編”とでもするか」
誰が読むんだそんな日記、と全員が思ったが口にはしない。
「あ、アイオロスはどうするんですか?」
とっさにムウはそばにいた相手に尋ねた。
「俺は写真集にしようかと思っている」
「写真集?」
「ああ。日常の中で目にとまった瞬間をまとめてみたんだが・・・感想をもらえるだろうか」
はにかんだ様子で差し出す姿に寒気を覚えながら、ムウは手に取った。
「これは・・・」
風に吹かれるたんぽぽの綿毛。
晴れ間にかかった虹の橋。
雨上がりの水たまりに映った青空。
さりげないながら微笑ましく、けれどどこかで見たようなありふれた景色。
しかし、
「(これをいい歳した男が撮っていると思うとイライラするんですよね・・・)」
「どうだろうか?」
「え?ああ・・・いいんじゃないですかね・・・」
「そうか!」
んで?とデスマスクは壁際にいたアフロディーテに声をかけた。
「えっ、はっ?私か?」
「他に誰がいんだよ、残ってんのはオメーだけだろうが」
「ああ・・・そう、だよな・・・」
かわいた笑いをこぼした彼は気まずそうに頬を掻いていたものの、やがて、
「やってない・・・」
と呟いた。
「ハァ?」
「だってまさかこんなことになるとは思わないだろうが!え、だってこれってエイプリルフールのネタなんじゃないのか!?」
しん、とその場が静まる。
「・・・エイプリルフール」
ぽかんとしたムウが呟いた。
「そういえば・・・」
「アテナ、まさか・・・」

まさか。

「「「「「「「「「「「「エイプリルフール・・・!!!」」」」」」」」」」」」」

「・・・だよな?」


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