日月譚
幼い頃から、美しい従兄の存在は私の自慢だった。
もちろん彼の魅力は外見だけじゃない。
見た目に似合わぬ男らしさ、時には無茶をしておじさまから叱られていたのも覚えている。
頭がよくて優しく、くだらない話にも飽きずに付き合ってくれる摩利は、私にとって物語の中の王子様そのものだった。
「ねえなまえ、お手紙は届いた?」
「誰から?」
決まってるじゃない、摩利さんよ、と級友たちははしゃぐ。
「前はよく手紙がきたって喜んでいたのに、最近はあんまりないわね」
「だってふたりとも学校に入ってしまったんだもの」
摩利はこの春、名門と名高い持堂院に親友の新吾くんと肩を並べて入学した。
いわく、学校ではふたり合わせて御神酒徳利などと呼ばれているらしい。
それに、先輩方から真夜中の奇襲を受けたのだとか。
ストームだなんて荒々しい嵐のよう、いったいどんなものかしら。
お布団に入っていたのを叩き起こされ連れ出され、きっと眠気なんて吹っ飛んでしまうにちがいない。
うたた寝を誘う授業、力の入る体育の話。
時々、私も男の子になれたら良いのにな、と思う。
泥まみれ砂まみれになっても気にせず体を動かすってどんな感じだろう。
寮長さんがやって来て、「お手紙ですよ」と束を置いていく。
「私宛てのはある?」
みんなが手を伸ばす中で、ひとりがきゃあと叫んだ。
「なまえ、来てるわよ!愛しの摩利さんから!」
きれいな桜色の封筒を選んでくれたのが嬉しい。
添えられている切手も春の花だった。
「ねえ早く読んで」
せがむ友人たちの声から逃げ出して、ひとりになれる場所でそっと開く。
同封されていたのは、一輪の桜を閉じこめた栞。
”拝啓、うるわしい従妹殿。
葉桜がきれいな季節になってきましたね。
そちらはなにもお変わりないでしょうか。
学年が上がった感想はどう?後輩が入って、きっとお姉さんになった心地でしょう。
こちらは毎日が新しいことばかりです。
・・・”
夢中になって読み進める手紙からは、本当に楽しい日々の端々がうかがえる。
ああ、生き生きと綴られている日常をほんの一瞬でも切り取って中に入ってしまえたら。
終わりの文にはっとして胸が高鳴る。
”週末、新吾と一緒に帰ります。
たくさんのお土産話がありますから、楽しみにしていらっしゃい。”
「早く会いたいな・・・」
ぽつりとこぼした言葉を爽やかなそよ風がさらっていく。
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