酒は酔い酔い恋の味



「それじゃいきますか。せーの」
カンパーイ!という声が響き渡る。
「・・・ぷはーっ!うめー!」
ビールを一息に飲み干したエルマタドーラの隣では、杯を手に王ドラがうっとりとした表情を浮かべて言った。
「やはり秘伝の老酒の味は格別ですね・・・!」
「なあ王ドラ。このスパニッシュオムレツ、俺が作ったんだぜ」
へえエルが、と彼は感心する。
「あなた、まともに料理ができたんですね」
「そのくらいできるわ!これでもフルでバイトしてるからな」
ウェイターでも厨房でも、彼の手にかかってしまえば朝飯前なのだ。
「てっきりずっと寝てばかりいるのかと」
「あのな・・・それで給料出るんなら苦労しねえよ」
ジト目を向ける相手に「冗談ですよ」と笑いながらオムレツを口に運んだ王ドラは、はっとする。
「お、美味しい・・・!」
「だろ?」
するとそれを見ていたドラリーニョが「僕も僕も!」と身を乗り出す。
「ほらよ、ドラニーニョ。ちゃんと噛むんだぞ」
「はーい・・・んまあーい!!」
エルは料理の天才だね、と褒められて得意げな顔をする彼を見て、ドラえもんは苦笑を浮かべる。
「それ以外は全部ジェドーラが作ったんだけどね」
「うぐ・・・それを言うなよ」
「まあまあ。細かいことは抜きにして、今夜はたっくさん食べて飲んで笑って楽しむであーる」
ドラメッドV世の言葉をきっかけに、彼らはふたたび「カンパーイ!」とグラスをかかげた。

***

真夜中。
「おい大丈夫かよ王ドラー・・・」
背中でふにゃふにゃとした返事をする相手にエルマタドーラはため息をついた。
「ったく、なんで俺が・・・」
普段はこんなに酔いつぶれるなんてことはないのに、よほど今日の飲み会が楽しかったにちがいない。
「(まあ、みんなで会うの久しぶりだったしな)」
卒業以来、全員で顔を合わせられる機会なんてめったに訪れることはない。
まるで学生に戻ったようだった。
「ん〜・・・なまえさあん、ダメですよつまみ食いしちゃ・・・」
「コイツ・・・すっかりいい夢見てやがんな」
お互い派遣先はいくつか経験してきたが、王ドラにとって今の生活はとても居心地が良いのだろう。
もし、選ばれたのが自分だったら。
らしくもない考えを振り払うように背中の重みを担ぎ直すと、エルマタドーラは悪いとは思いつつインターホンを押した。
しばらくして、誰ですか、とささやくような機械の音声が聞こえてくる。
「悪い、エルだ。王ドラ送ってきた」
”あ、今開けるね”
ぱっと明かりが点いて、すぐにドアが開く。
「エル!」
「寝てただろ。コイツ、こんなベロンベロンになっちまって」
背中をのぞき込んだなまえは「あちゃー」と呟く。
「楽しかったみたいで何より。どうぞ上がって」
王ドラはこっち、と部屋に通されたエルまたドーラはベッドの上に体を下ろす。
「んー・・・」
「いいご身分だなあ」
「ふふ、たまには息抜きも必要だよね。エル、ありがとう」
「いや。じゃあ、俺はこれで」
もう帰るの?と##NAME1#は尋ねた。
「え、」
「コーヒーでも飲んでいきなよ。エルがよかったら」
「そりゃ、ありがたいけど・・・いいのか?」
「もちろん。ソファで待っててね、今淹れてくる」
キッチンにぱたぱたと入っていった背中を、エルマタドーラはぼんやりと見つめる。
「(いいなあ、こういうの・・・)」
なんで俺はロボットなんだろうなあ。
人間でもロボットでも、必ず別れは訪れるものだと彼は理解していた。
老化はしなくても部品やオイルは劣化するのだから、形は違えど人間と似たようなものだとも思っている。
だから、彼女を好きになったことを後悔はしていないし、遠慮するつもりもない。
たとえダイヤモンドよりも硬い友情で結ばれた親友でも。
「お待たせ、エル」
「おう。ありがとな」
千載一遇のチャンスだとは分かっている。
けれど、アルコールが抜けきらない今はまだその時じゃないと言い訳する自分を、今夜だけは見逃すことにした。

***

「な、ん、で」
ここにエルがいるんですかあー!という声でエルマタドーラは目を覚ました。
「あ?なんだっ・・・」
「エル!どうしてあなたがうちにいるんです」
王ドラの声ががんがん響いて、彼は思わずうめく。
あれから結局眠気に負け、リビングのソファを借りることになったのだ。
「頼むからボリューム落としてくれ・・・」
するとキッチンから「昨日エルが王ドラを送ってくれたんだよ」となまえが顔を出した。
「えっ?」
さーっと青くなっていく王ドラを布団にくるまって眺めながら、エルマタドーラはにやにやと笑う。
「もしかしてなんにも覚えてないのか?」
「すみません、恥ずかしながら・・・」
「ま、しょーがないか。べろべろに酔っぱらってたもんなあ」
そんなに飲んだの?となまえに尋ねられた王ドラは、ずきずきする頭を抱える。
「ほんとに記憶がなくて・・・なまえさんにもご迷惑をおかけしました」
「ううん、全然。それに、いつも頑張ってくれてるし、たまには羽目を外すのも悪くはないと思うよ」
次は烏龍茶のがいいかもな、と言ったエルマタドーラに王ドラは「そんなことありません!」と反論する。
「とんでもなく強いお酒がいつの間にか私のところに回って来てたんです」
「そりゃきっとドラニコフが頼んだテキーラとかじゃないのか?」
「うっ・・・そうかも」
グラスを間違えたのかもしれません、と王ドラはしゅんとする。
「なあ、次はなまえも行こうぜ」
「え、いいの?」
「おう。きっとドラミも来るしな」
すると「だだだめです!」と王ドラはあわてる。
「行っちゃだめなの?」
「だめというか、なんというか・・・」
「いいんじゃないの、別に。大勢のほうが楽しいぜ」
エルマタドーラと王ドラの間に見えない火花が散る。
「なあ?」
「・・・ええ。そうですね」
そんなことなど知りもしないなまえは、
「早く点心食べようよー」
のんきな声でとうながした。


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