あなたとルナティック番外編2



「あーあ・・・暇ねえ」
氷がすっかり溶けたグラスの中身を飲み干すわけでもなく、タイガーズ・アイは手の中でもてあそんだ。
「どっかで女の子でも引っかけてくるってのはどう、」
「そんな気分じゃないっていうかさあ。あんたこそ、なんか面白い話題とかないの?」
ぜぇーんぜん、とホークス・アイはため息をつく。
「どのおばさまたちも素敵なんですけど、誰もかれも最近はマンネリ気味なんですよね」
ウィットに富んだ会話を楽しむにしても、時々飛び交う更年期だのなんだのという単語ばかりがなぜだか耳について仕方のない彼は、しばらく断食をしているのだった。
「気乗りしないわね」
そうね、と呟いたホークス・アイは、ワイングラスに映った自分の顔を見つめる。
「トキメキ、ってのが足りないんですよねえ」
「そう、そうなのよね。みーんな簡単に引っかかってくれちゃって、駆け引きとかまるでないのよ」
「あー分かるわ、それ。すーぐ目の色変えちゃって、ちょろすぎったらありゃしないんですから」
その時、背を向けていた扉が開く音とともに楽しげな鼻歌が聞こえてきて、ふたりは目配せをする。
「・・・来たわよ、おめでたい子がさ」
羨まし、とタイガーズ・アイは肩をすくめた。
「ランラランララーン、っと・・・どうしたの、ふたりとも。あいかわらずしけた顔してんのね」
「うるさいですね。フィッシュ・アイ、今度はどんな男を引っかけてきたんです?」
なあにいきなり、と彼は空いている席に腰を下ろすとカクテルを注文した。
「いつもならそんな話、みじんも興味もたないくせに」
「それくらい暇なのよ」
「あー、僕の恋愛を肴にしようってわけ?」
つまんない、とタイガーズ・アイは片肘をカウンターについて呟く。
「僕が今ハマってんのはね、こーれ」
そう言ってフィッシュ・アイが取り出したのは、一冊の漫画だった。
「・・・なんです、これ」
「なまえから借りたんだけど、すごいのよ。ハラハラドキドキ、ふたりの恋愛もうどうなっちゃうのーって感じ」
「あんたの感想、レビューの才能ゼロじゃない・・・まったく面白そうに聞こえないんだけど」
げんなりとした表情を崩さぬまま、タイガーズ・アイはそれを受け取るとぱらぱらとページをめくる。
「あん、ちゃんと最初から読まないとだめよ。もったいないんだから」
「ふーん・・・これ、完結してる?」
「うん。最後まであの子が持ってるはずよ」
ちょっとタイガーズ・アイ、とホークス・アイは訝しげな声を出す。
「あなた、読む気?」
「それくらい暇だってことよ」
一巻から持ってきてあげるね、と嬉々としてフィッシュ・アイは立ち上がった。

***

「なにこれ、なにこれ・・・このふたり、どうなっちゃうの」
目で追うのももどかしいとばかりにページをめくるタイガーズ・アイの隣では、ホークス・アイが鼻をすすっている。
「ていうか超泣けるんですけど、こんな別れ、あんまりじゃない・・・」
予想以上の反応に、フィッシュ・アイとなまえは目が点のまま、驚きをかくせない。
「この漫画、そんなに良い話だったっけ・・・」
「よっぽどトキメキに飢えていたのね・・・かわいそう・・・」


- 160 -

*前次#


ページ: