ドラズss



「手、だいぶ荒れてますね」
王ドラは、なまえの手に触れながら呟いた。
「最近ケアするの忘れてたからかもね」
「だめですよ。ちゃんとケアはしてくださいね」
そう言いながら、彼はクリームを取ると優しく塗りこめていく。
指の先にいたるまで丁寧な手つきでマッサージをほどこしながら、彼は「なまえさんは女の子なんですから」と言った。
「・・・王ドラって、たしか女の人が苦手じゃなかった?」
「あ、」
はっと思い出したように王ドラは顔を上げるが、しばらくして首を傾げた。
「それが不思議なんです。相手がなまえさんだと思うと緊張しなくて」
なにそれ、となまえは表情をしかめてみせる。
「遠まわしに女に見えないって言ってるのね?」
「ちがいますちがいます!そうではなくて。だって、困るでしょう?私はお世話ロボットなんですから」
女の人というだけでしどろもどろになってしまうというのは、彼の困った癖だった。
「・・・これでも、けっこうコンプレックスなんです」
急にしゅんとしてしまった相手に、なまえは「ごめん、いじわる言うつもりはなかったの」と謝る。
「王ドラは最高のお世話ロボットだよ。来てくれてほんとに助かってるんだから」
「そ、そうですか!」
さっきまでがっかりしていたと思いきや、今度は嬉しそうな笑顔を見せる。
「王ドラって、・・・ほんとにロボット?」
「なんですか、いきなり?」
「だって、なんだか人間みたいに思えてきちゃって」
その言葉を聞いた瞬間、彼の心臓に似た部分が大きく飛びはねた。
「な、なにを言っているんですか。私は正真正銘、猫型ロボットですよ!」
「うん、そうだよね。変なこと言っちゃった」
本当はずっとそうだったらいいのにと思っていたことを当てられてしまい、王ドラは動揺してしまう。
たとえ人間にはなれなくても、ロボットが人間と恋に落ちるのが許されるとしたら。
あり得るはずがない、と最後にはいつもがっかりする。
けれど、いつかそんな日が来るかもしれないと考えてしまうのだ。


理由も知らされずに呼び出された王ドラは、目の前の相手に尋ねる。
「なんですいきなり。私に用でもあるんですか?」
エルマタドーラは、「実はだな」ともったいぶったように切り出した。
「俺は、なまえのことが好きなんだ」
「す、好き・・・!?」
突然の告白に、王ドラは「えーッ!?」と叫んだ。
「す、す、好きってエエエ、エルマタドーラ・・・!」
「わかったわかった、落ちつけって!」
あわてて彼をなだめたエルマタドーラは、コホンとひとつ咳をしてみせる。
「本気なんだ、王ドラ。言っとくが止めるなよ」
「止めるもなにも、だってエルはロボットじゃないですか!なまえさんは人間ですよ」
「それがどーした。俺は過去にも人間の女の子と付き合っていたぞ!・・・フラれたけど」
王ドラは「本気って言いますけど」と反論した。
「ロボットと人間が、ほんとに恋できるわけないじゃないですか・・・それに、エルが感じているのだって本当は恋じゃないかもしれませんよ」
どうしてこんなに必死になるのか、自分でも不思議だった。
しかし、エルマタドーラはあっさりと答える。
「ダイヤモンドよりも固い友情を知っているのに、誰かを好きになる気持ちが分からないわけないだろ」
うっ、と王ドラは思わず言葉に詰まる。
「それは、・・・でも」
「もしかして」
「な、なんですか」
エルマタドーラはにんまりと笑うと、「案外、王ドラもなまえのことが好きなんじゃないのかな〜?」と言った。
「なーんてな!・・・あれ?王ドラ、どした?」
衝撃的な言葉を突きつけられた彼は、ふらふらと歩き出す。
「すみませんが、なんだか体調が悪いので帰らせてもらいます・・・」
王ドラの背中を見つめながら、エルマタドーラは呟いた。
「まさかあいつも・・・?」


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