ハニー・ミルク・ナイト



ベッドに入る前の一杯はふたりともこだわりがある。
片方のマグにはたっぷりのホットミルクと、スプーンひとさじの蜂蜜。
もうひとつのマグには湯気の立つブラックコーヒーを注いでリビングへ戻る。
ボア付きのスリッパを機嫌よさそうに揺らしてソファで雑誌をめくっていたマックスは、私に気づいて顔を上げた。
「お待たせ」
「ワーオ!これこれーこれが飲みたかったんだよネ」
大げさな反応を見せた彼はミルクのマグを受け取るとそっと口元へ持っていく。
私も隣に座って良い香りのするコーヒーをゆっくりと味わっていると、彼は言った。
「そんな苦いのが飲めるなんて、なまえってばすっかり大人だネ」
「コーヒーを飲めるのが大人なら、マックスは子供かな?」
彼の冗談にちょっといじわるを乗せて返す。
「いいもん、僕は子供で」
「そっか。残念だなー大人と子供とじゃ恋愛できないね」
何気なくそう言うと、マックスはすねたような顔をして押し黙る。
どうやらご機嫌を損ねてしまったらしい。
昔はこうなると「ぷん」という表現が似合っていたが、大人になった彼のこういう時の表情は、実を言うときらいじゃない。
これは誰にも言っていない秘密だった。
「・・・なまえ」
「はい、」
「僕の考えてること分かる?」
分からないです、と正直に言うとマックスはため息をついてみせた。
そして、
「!」
不意打ちのキスはずるい。
目を閉じると、甘いハニーミルクの味がした。
「これでおんなじでしょ?」
唇が離れてマックスはささやく。
うん、と頷けば「びっくりした?」と満足そうに笑っている。
「ごめんね、驚かせて。だけどちょっとお返し」
許してネ、そう言ってふたたびキス。
マックスの扱いに慣れていると思っていたけれど、本当は反対なのかもしれない。
「なまえのことが大好きだよ」
「私も。マックスが大好き」
おそろいだね、と嬉しそうに言った彼は私を優しく抱きしめた。


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