「安室さんとなまえさんっていつ頃からのお付き合いなんですか?」
ランチタイムも終わり落ち着いた店内で明日の仕込みをしている時だった。
隣で野菜を切っていた梓さんが手を止めて「ずっと気になってたんです」とこちらを見たのは。
「古くからの付き合いとは聞いてるんですけど、最近安室さん狙いのjkの中で二人は結婚してるなんて噂もたってて」
「そんなまさか。噂ってすごいですね」
「今時のSNSの力をなめちゃいけませんよ安室さん!」
すっかりポアロの常連と化したあいつの存在がまさかこんなに大きくなっているとは、思わず乾いた笑いが出る。
元々あいつにカフェでバイトしていることは言うつもりなんてなかった。
しかし非番の日に暇を持て余したなまえが俺がいるとも知らず客としてふらっと店にやってきたのが運の尽き。
カウンターでコーヒーを淹れる俺を見て「降谷さん!?」と今にも騒ぎだしそうななまえの口を俺が手で塞ぐ方が早かった。
そしてこれまたその時客としてきていた園子さん達に目撃され咄嗟についた嘘が「古くからの知り合い」。
正直もうなまえを店に来させる気はなかったが何故がその場で瞬時に仲良くなった園子さんとアイツは呑気に連絡先の交換をして、あいつはスタンプカードを作るまでにはポアロに足を運ぶようになったのだ。
「そんな大した関係じゃないですよ、僕たちは」
「けど安室さん、なまえさんの前だとちょっと顔崩れますよね」
「崩れる?」
「引き攣った笑い浮かべながら毒吐きあってるの、見ててなかなか面白いです」
にこにこ楽しそうに笑いながらそう言って梓さんはポケットから紙切れを取り出すと「モテる男は大変ですね」とそれを手渡してした。
連絡待ってます、とやけに丸っこい文字と共に並んだ11桁の番号。
「ですね」と眉を下げ梓さんから受け取った。
*
やっぱ若い子はお肌のハリと行動力が半端ないなと思いました。
「あの、安室さんのお姉様ですよね?安室さんにこれ渡してくれませんか…!?」
非番の日だった。
適当に部屋の掃除を済ませ昼食を買いにTシャツのままコンビニへ。
おにぎりを選んでいると何やらこちらを見てひそひそ話をする女子高生二人組がいることに気がついた。
ああ、いい歳したおばさんがすっぴん部屋着姿でおかかにするか梅干しにするか真剣に悩んでいる姿はさぞ醜かったのだろうと一人納得しながら籠にそそくさおにぎりをぶち込んだ時、
声をかけられた。
「お姉様?え…私、安室さんの姉?」
確かにあの人童顔ベビーフェイスだけれども。私のが年下!後輩!とは言えず。
「ポアロで親しげに話してるとこ見て最初はしつこい追っかけかなと思ってしまったんですけど、」
追っかけ?寧ろ家庭訪問されたり唇噛まれたり、どちらかと言えば追っかけられてるの私の方ですが、とも言えず。
「ツイッターの書き込みで実は親族だったと知りまして、」
お願いします!と手渡されたピンク色のメモ帳には名前と電話番号が記載されていた。
反射的にそれを受け取ると彼女達はぺこりと一例して嵐のようにコンビニを去って行った。
「どうすんのよこれ…」
最早風見さんにあげちゃう?いや、今度こそ東京湾に固めて捨てられる。
想像して身震いしながらコンビニを出ると大粒の雨が降っていた。
もちろん傘なんか持ってるはずもなくコンビニ袋を抱えながら全速力で走り出す。
途中、やけに人々の目線がイタイなと思ったらブラがくっきり透けていて、慌てて近くにそびえ立っていた高層マンションの駐車場に一時避難。
流石にこの状況はやばいとスマホを取り出し電話帳を開いて、すぐ閉じた。
普段から仕事漬けだったしこういう時連絡出来るような友達、そういえば一人もいなかった。
項垂れながら背中を壁にくっつけその場に蹲ると、握っていたスマホが震えた。
表示された降谷の文字に応答ボタンではなく電源ボタンを長押し、また呼び出しとかだったらたまったもんじゃない。
「上司の連絡を無視するなんて、お前はいつからそんなえらくなった」
「……え」
応答ボタン押してないのに降谷さんの声がした。
壊れた?とスマホを上下に振っていたら頭上から呆れたため息が聞こえて顔を上げたらあらデジャヴ。
「人ん家の前で何やってる、部下にストーカーされる趣味はない」
「人ん家?え、降谷さん…」
空に向かって一直線に伸びるマンションを見上げて、家?と指さすと「文句あんのか」と言わんばかりに降谷さんは腕を組んだ。
たまにしか帰らないくせにまあ随分と立派な要塞をお持ちで。
「けど、以前酔った時に連れ帰られた家とは違う気が…」
「あっちは仕事用の仮家だ」
「…流石ですね」
「それにしてもお前は、随分と酷い格好だな」
降谷さんの視線が私の頭のてっぺんからつま先へと向いて、改めて自分がすっぴん部屋着姿だった事を思い出す。
瞬間湯沸かし器の如く一瞬にして顔を真っ赤にした私は「か、かえります!」と裏返った声をあげると顔面に勢いよく何かが飛んできた。降谷さんのジャケットだった。
「それ着てついて来い、そんな格好のまま街を徘徊して通報されたら逆に迷惑だ」
カッチーン。
「襲わられる方の心配とかないんですか?」
「襲うの間違いだろ」
扉を潜ってそそくさ建物へと入ってく降谷さんの背中を睨みながらその場から全く動こうとしなかったら降谷さんが戻ってきて強制連行。
あんま手間をかけさせるなと言わんばかりに引きずられた。
エレベーターに乗り込み押された最上階のボタン。雨じゃなかったらさぞ眺めは綺麗だったであろう。
「ついたぞ。服貸してやるからまず風呂で身体温めてこい」
「…お風呂、ガラス張りとかじゃないですよね」
「至って普通のバスルームだ」
呆れ顔の降谷さんにバスタオルとシャツを受け取って、脱衣所に向かった。
部屋は至ってシンプル、というか生活感ないくらい物が少ない。
お風呂に入りながら降谷さんが使ってるシャンプーを見たら見たことないけどなんか高価そうなやつだった。
これであのキューティクルヘアは保たれてるのか、なんて。
「…お風呂、ありがとうございました」
「洋服は今洗濯してる、乾いたら着て帰れ。それとパンツのポケットに入ってたぞ」
濡れた髪を拭う私に降谷さんがソファに腰掛けながら差し出したのは先ほどのピンクの紙切れ。少し皺になっていた。
ああ、と視線をそらしながら降谷さんにそれを突き返す。
「私、ポアロに通うjkの中では安室さんのお姉様らしいです」
「お姉様?年下なのにな」
「人が気にしてるとこほじくります?」
「色んな噂が拡散されてる様だな、今度からは受け取らなくていい」
降谷さんはポケットからまた新たな紙切れを取り出すと纏めてゴミ箱に放った。
ほんとモテるのも考えものだなと少し同情する。
「けどあくまで安室さん宛てであって、降谷さん宛てではないですから」
「俺の一部であることには変わりないだろ」
「正直爽やかスマイルで人に優しい降谷さんは気味が悪いです」
「言ってくれるな。じゃあもし、降谷宛てに来たらなまえはどうするんだ」
まるで試すように私の瞳をじっと見つめながら放たれた言葉に少し、動揺してしまった。
部屋に響く雨音に掻き消されてしまうくらい弱々しい声で反論する。
「別に、どうもしません」
「相変わらず可愛くないな」
「余計なお世話です」
「少しは懐いたと思ったんだが、自惚れてたのは俺の方か」
自潮気味に薄く笑いながら私の腰に腕を回し降谷さんはソファの背にもたれかかった。
バランスを崩した私は降谷さんの膝の上に乗っかるしか楽な態勢をとる方法がなくて。
「最近、セクハラ的行動が多い気がしますがっ」
「合意の上だ、セクハラじゃない」
「合意してないです」
「じゃあ、ダメか?」
回ってる腕の力が強くなって耳元で声がした。
ダメかって、ダメかって!!そんな聞き方はほんとずるい。
「いい…です、」
「………」
「…なんで降谷さんが固まるんですか」
恥ずかしいのこっちなんですけど!
「いや、まさかそんな素直に返事が返ってくるのは…意外だった」
「降谷さんに言われたくないです。本心いつも隠してっ何考えてるのかわからないし」
「素直になるのは俺の前だけでいい」
「は?…っなんですかそれ」
「そんな独占欲剥き出しなこと考えてない、今の俺は」
「っ、」
私だって本当は降谷零を本気で好きになる人が沢山いたら今以上に可愛くない女になるのは目に見えている。
自分のモノじゃないのに嫉妬心とか独占欲とかあっちゃいけないと思ってたけど降谷さんの中にもある感情ならお互い様だから、縛っていたい。私のものだって、今すぐ手に入らなくても
「好きです、降谷さん」
似た者同士L