「ポカリスエットとりんご」
電話口から唐突に発せられた言葉にこのままブチ切りするか迷ったか相手は職場の上司。一旦冷静になり大きく息を吸った。
「ゴリラ」
「………ふざけてるのか」
「りんごときたらゴリラでしょう」
「ポカリスエットとりんごを買って15分以内に家まで持ってきてくれ」
プツンと切れた電話にパソコンのエンターキーをパンと激しい音を立てて叩いた。私から放たれる不のオーラに風見さんが珍しく同情の眼差しを向ける。
「風見さん」
「な、なんだ」
「私、昨日風見さんとパーティー参加したじゃないですか。警備もしっかり勤めたし任務もそれなりに果たしました。そのあと二人でご飯を食べてから現在進行形で報告書の作成をしています」
「ああ」
「お互い一睡もしてないですよね」
「……ああ」
「なのに」
なのにあの人は、まるで人をパシリのように…!
怒りでわなわな震える私に「気持ちはわかる」と降谷信者風見さんが珍しく私の肩をもった。
今日は話がわかるなと見直したのもつかの間「だが、」と風見さんは話を続ける。
「見舞いに行ってやれ。降谷さんは俺じゃなくてお前のスマホを鳴らしたんだ」
こういう時こそ出番だろ、と私にスーツのジャケットを押しつけた風見さん。
降谷さんはここんとこ働きずめでついに体調を崩したらしい。
いつだったか、私も風邪引いた時頼んでもないけど看病しにきてもらったっけ。
「…借りを返すだけですからね」
私を頼ってきてくれたこと、別に嬉しくなんかないし。…そんな単純じゃないし!!
似た者同士N
「…なまえです」
「玄関は開けてある、入ってきてくれ」
前にも訪れた事のある降谷さん宅、立派なマンション。
オートロックを抜けて玄関の扉を開けた。
床に無造作に放置してあるジャケットや靴下、辿った先にソファに横たわる降谷さんがいた。
「熱は?」
「測ってない」
「それじゃあ良くなるものも治りませんよ!頼まれたものの他に色々買ってきたんで、ちゃんと薬飲んでベッドで寝てください」
買い物袋を置いて近寄ると降谷さんは怠そうに唸りながらそっぽを向いてしまった。
私はいつもスーツをきっちり着こなして自分にも部下にも厳しいスパルタ降谷さんしか見たことないからなんかこれはこれで新鮮で。
子供みたい、と緩む口元を必死に隠しながら肩を揺すった時、その手は掴まれ一瞬で降谷さんの腕の中に引きずり込まれた。
「…来ると思わなかった」
「いやっ人を呼びつけて何を今更…それよりち、近いですってば…!」
「上司に呼ばれたから来ただけか?」
「…なんですかその聞き方は…」
また人を試すような、そんな聞き方はずるい。
「降谷さんこそ、パシるなら私じゃなくて風見さんでもよかったんじゃないですか?」
「なまえの方がいつも暇そうだろ」
「なっ!」
「嘘だ馬鹿、簡単に騙されすぎだ」
降谷さんの上に覆い被さる状態のまま、力強く抱きしめられて心拍数が一気に上がる。
上司だから?部下だから?私がそれを気にしてるように降谷さんもまた、最近はいつも以上に私の胸の内を探ってきてるような気がする。
「人間誰しも人肌が恋しい時はあります」
「なんだ急に」
「私は、降谷さんがそうなった時真っ先に呼ばれる相手でありたいです」
こんな恥ずかしいこと言わせないでほしい。
隠すように降谷さんの胸板に顔を埋めれば名前を呼ばれて、顔を上げたら唇が重なった。
「敵わないな、お前には」
「少しは安心しましたか?」
「調子に乗るな、りんご早く皮剥いてくれ」
「ウサギちゃん型にしてあげましょうか」
「やっぱ風見を呼ぶべきだったな」
憎まれ口を言いながらじゃないと、お互いまだ本音は言えないとこはなかなか変わりませんね。