「おい」
「はいー?」
「少しは真面目に仕事したらどうなんだ」
頭上から風見さんの呆れた声と共に丸めた書類の束で頭を叩かれた。
「いたいです…」と伏せていた身体を起こせば時計の針が既に日付が変わる時刻を指している事に気付く。ああ…どうりで眠いわけか。
「降谷さんが留守だからって、最近怠けすぎだぞなまえ」
「だって…」
その降谷さんがいないおかげで毎日毎日残業してるんだぞこっちは。
本来は降谷さんが目を通すべき書類に印を押し、それをここ暫く潜入捜査に行ったきり戻ってこない彼の机に積んでいく。
帰ってきたら覚えとけよ…と積まれた書類を睨んだとほぼ同時。机に放っていたスマホがけたたましい音を立て鳴り響いた。
「………はい、こちらなまえ」
「俺だ」
「俺?どちら様でしょうか。詐欺ですか?振り込めですか?」
「…………………降谷だ」
電話口の男は今絶対に顔を顰めてるであろう。でも私だって睡眠不足でだいぶ機嫌が悪いんだ、仕方ない。
「お疲れ様です降谷さん。で、ご用件は?」
「今こっちの仕事が全部片付いた。これから警察庁の方に戻りたいから車で迎えにきてくれ」
「……え」
「終電に一歩間に合わなくてな、悪いが頼んだぞ」
そう言ってプツンと一方的に切られた電話。その後すぐにメールで降谷さんの現在地の地図が送られてきた。
「………風見さん…」
「お前がいけよ」
相変わらず鬼畜な上司達だこと。
似た者同士C
「………お疲れ様です」
「お前もな」
降谷さんに指定された場所は結構遠くて下道を使ったら思ったより時間がかかってしまった。人通りの少ない路地裏で真っ黒いスーツに身を包んだ上司を助手席に乗せる。人目を盗んで私の車に乗り込むくらいならタクシーでも使えばよかったの、
「一秒でも早くなまえに会いたかったから呼び出した、って言ったらどーする?」
に。
「は、はい…?」
降谷さんの思わぬ台詞に動揺してアクセルとブレーキを踏み間違え急発進してしまった。
「っ冗談だって、俺はただタクシー代を浮かせたかっただけだ馬鹿」
「笑えない冗談はやめてください…!それになんですかその理由!それだけの為に私を呼びつけたんですか!」
「いや……………今のは俺が悪かったから、頼むから前向いて安全運転してくれ」
疲れきった様な降谷さんの声色、私もこれ以上は言い争いをする元気もなく口を閉ざした。車内を包む沈黙に若干の気まずさを感じてラジオをONにすればDJが今夜はカップルに捧げるラブソングメドレーを送りますとかなんとか言って流れ出した岡崎豊のILOVEYOU。………余計に息が詰まるんですけど。
「………そ、そういえば降谷さん。今日は珍しく黒いスーツだったんですね」
「ああ。一応ドレスコードのつもりだったんだが、見えないか?」
「いえ、すっごくお似合いですよ。ドレスコードって事はパーティーですよね?きっと会場の女性達はイチコロだったと思います」
助手席側のミラーを見れば少しワックスのついた金髪が窓から流れ込む風にさらさら揺れている。……ほんとずるいよなあイケメンって。まあ大事なのは見た目より「中身」ですが。それは黙っておこう、と再び口を閉ざせば「今日はやけに褒めちぎるんだな」と降谷さんは逆に気味悪がっていた。
「けど、そう言うお前はどんな格好してもやっぱりいつも通りか」
「え、何がですか?」
「こっちの話だ…いいから運転に集中しろ、じゃないと」
降谷さんの右手が不意に伸びてきて、私の手と重なる様にハンドルを握った。その瞬間大きく車が揺れて、あまり整備されてない道路だからどうやら段差があったらしい。危うくハンドルを持ってかれるとこだった…。
「っありがとう、ございます」
「まだ死にたくはないからな」
皮肉交じりの言葉。降谷さんとこうして会話するの、よく考えたら久々なんだと今更ながら実感する。嫌味な上司だし性格もかなり歪んではいるが、
「降谷さん…………おかえりなさい」
「今更だな、もっと早く言うべきじゃないかその台詞」
「…やっぱまだ帰ってこなくてよかったのに……」
いないといないでまあ、それなりにつまらないもんなのである。