なんだか頭痛いなーと思ってたのが昨日の夜のこと。
そして案の定というべきか朝になり体温計に表示された数字をみて驚愕。現在進行系でベットで死んでいた。一人暮らしで風邪を引くのは正直つらい。
どんなに高熱でも薬は自分で買いに行かなきゃならないし、ご飯も自分で作らなきゃならない。
これが独身の宿命か、と一人乾いた笑いを浮かべ私はスマホを手に取った。
「はい、こちら風見」
「おはようございますー…なまえです」
「どうした、随分と鼻声だな」
「風邪ひいたみたいなんで、今日はお休みくだはい」
「風邪?………馬鹿でも引くのか?」
「どういう意味ですかそれ」
「まんまの意味だ」
失礼な、と口を尖らせれば「了解、お大事にな」という一言と同時に通話終了。
もっと後輩を思いやれよあの鬼畜眼鏡と毒を吐きながら私は枕に顔を埋めた………あー頭いたい。
その頃、警備企画課の執務室にて。
「降谷さん、なまえですが今日は風邪で休むと連絡がありました」
「…………あいつが風邪?」
「かなり鼻声だったので、珍しく弱ってるみたいです」
「………………」
「………もしよろしければなんですけど。…その仕事は私が片付けておきますので、様子見に行かれてはいかがですか?」
風邪と聞いて作業をする手を止めた降谷に「彼女一人暮らしなのできっと助かると思いますよ」と風見がさり気なく言葉を足せば降谷は少し間を置いた後「………そうだな」と頷いたのだった。
似た者同士D
ピーンポーンと部屋のインターホンが鳴って目が覚めた。宅配便のお兄さんかな……。だが申し訳ないが今の私には玄関まで行く元気もなく再び毛布に包まる。
ガチャリ、扉が開く音がした。
近づいてくる足音に、驚いてベットから身体を起こし寝室から顔を出せばそこには、
「…ふ、降谷…さん!?」
「……なんだ、思ったより元気そうだな」
「なんでここに…っ」
熱に浮かされ滲む視界にコンビニ袋を持った降谷さんの姿が映る。
おでこに貼りっぱなしの冷えピタにボサボサな髪の毛、しかもスッピン。熱とは違う意味で顔が真っ赤になった私は慌てて寝室の扉を閉めた。
「風見に言われて様子を見に来たんだ、コンビニで色々買ってきたからここ開けろ」
「っ誰も来てほしいなんて頼んでません…!しかもどうやって家の鍵、」
「そんなの管理人に手帳チラつかせれば簡単だろ?」
「っそれ職権濫用…!」
フラフラの身体で扉を押さえるがやはり力が入らず、軽く押し返されただけで簡単に降谷さんの侵入を許してしまった。
床にヘタリ込む私に深く息を吐いて、降谷さんもまた私と視線を合わせる様にその場に屈むとその長い指で私の横髪を耳にかける。
「噛み付いてばっかいないで、弱ってる時くらい黙って俺の言う事を聞いたらどうなんだ」
「っ、」
そして降谷さんによって軽々抱き上げられた身体は再びベットへと逆戻り。
コンビニ袋を漁って「飲め」と渡されたポカリを黙って受け取った。
「……女の子の寝室にズカズカ上がりこむなんて、デリカシーがなさ過ぎます」
それにやけに手慣れた感じ。なんか腹立つ。
「…他の子はこれで落とせても、私は無理ですからね…!」
「なんの話をしてるんだお前は、俺だって誰にでもこんな事するわけじゃない」
ただ、
「なまえの場合は自己管理がなってない上に独身だからな、放置してぽっくり死なれても困る」
「自分だって独身のくせに」
「…っとに可愛気ないな…」
余計なお世話です、という言葉はポカリと一緒に飲み込んで。
横目で降谷さんを見ればワイシャツの袖を捲りネクタイを少し緩めていた。
「何か食べたいものは?」
「…え?」
「作ってやるから、早くなんか言え」
「………たまご…粥…」
「朝飯前だな」
咄嗟に頭に浮かんだものを口にすれば降谷さんはふっと笑って寝室から出て行った。
そして直ぐに台所から冷蔵庫を漁る音が聞こえる。……何にも入ってないとか余計なお世話だし。
ベットに脱ぎ捨てられた彼のスーツジャケットを握って、頭から毛布を被る。
「……どーせ可愛気なんてないですよ…」
私は普通の女の子みたくどうすれば男の人が喜ぶのかも、可愛いって思ってもらえるかもわからないし。
そしてそのまま眠りについてから暫く経って。
「おい」
「んぇ…?」
「俺のジャケットは抱き枕じゃないんだけどな」
最初は握っているだけだった降谷さんのジャケット。気づいたら抱き締めて眠ってたらしく私の腕の中で皺になっていた。
その光景を見て、少し口元を緩めた降谷さんに恥ずかしさから身体が小刻みに震えだす。
「っち、ちちち違います…!っこれは…!」
「お粥出来たから、冷める前に食えよ」
「っへ?…お粥?」
「結構な自信作なんだ、なんなら食べさせてやってもいいけど」
そう言って木のスプーンで私の唇を突いた降谷さんに「自分で食べれます…!」と声を上げて。
寝室にある小さな机に置かれたお粥にお腹が鳴った。
流石、喫茶店でバイトしてるだけある…見た目も綺麗だし、
「………おいしいです…すっごく」
「口に合って何より」
お粥を頬張る私を見て、降谷さんが珍しく嬉しそうに目を細めたから…なんだかまた、熱が上がってきた気がする。
そして満腹になったら襲ってきた睡魔に、降谷さんが買ってきてくれた風邪薬を飲んでからベッドについた。
同時に降谷さんのスマホが震えて、時計を見れば昼過ぎ。…そろそろ仕事に戻るのかな。
「なまえ、後はこまめに水分取って安静にしとけよ」
「はい、……あの、降谷さん」
薬の効果もプラスして今にも閉じてしまいそうな重たい瞼を必死で持ち上げ、降谷さんのシャツを引っ張った。
「今日は……ありがとうございました」
そう口にすれば降谷さんがこちらを振り向いて「ああ」と返事が聞こえたのを最後に、私はそのまま意識を手放した。
だからその後降谷さんの体重がかかってベッドが軋んだ事も、唇に落とされた甘い口づけの存在も……私は知らない。
「……ほんと、無自覚ってタチ悪いな…」
いつもは引っ掻いてくるくせに偶に不意打ちで擦り寄ってくるとこ。心臓に悪いからやめてくれ。