「おはようございま〜あふ」

「…………欠伸と挨拶を混ぜるな馬鹿」

「あ、風見さんいたんですね。おはようございます」

風邪が完治してから二日ぶりの出勤。
久々にずっと寝てるだけの二日間だった為、逆に身体が鈍った気がする。
執務室では先に出勤していた風見さんがパソコンと睨めっこしていて、そして降谷さんは…

「…あ、いないんだ」

せっかく看病してもらったお礼に今日は昼食でも奢ろうと思ってたのに、またポアロで女の子にでも囲まれてるのかしら。…ま、どうでもいいけど。
降谷さんのディスクを横目に私は自分の持ち場につく………机の上に書類の山が積んであった。
「休んだ分働け」というメモと共に。

「風見さん………」

「俺は知らん」

私の上司達は安定で鬼だ。
……でもよく考えたら降谷さんは昼食奢られるより仕事片付けてもらった方がよっぽど喜ぶ気がする。
別に降谷さんを喜ばせたいわけじゃないけど借りは、作りたくないから。

ふうっと大きく息を吐いて嫌々ながらも書類と向き直ったとほぼ同時、スマホが震えた。

『あ、もしもし!なまえさん?』

応答ボタンを押せば電話越しに相変わらずテンションの高い声。

「園子ちゃん久しぶり、どうしたの?」

『今日学校が午前で終わりなんですけどよかったらお昼ご一緒できませんか?』

「今日?ごめん今日はちょっと…」

鬼畜上司が書類の束をプレゼントしてくれたおかげで行けない、とは言えないけど。

『実は前に紹介した秘書の事でちょっとお話があるんですけど……』

園子ちゃんのその一言で状況が変わった。



似た者同士E



前に降谷さんによって連絡先を抹消された秘書さんがどうしても私に会いたいと園子ちゃんに頭を下げたらしい。
とりあえず詳しい話は昼にいつもの場所で、と言われたので訪れた喫茶店ポアロ。
……案の定と言うべきか、そこでバイトをしていた上司はすごい形相をしながら注文を取りにきましたが。

「珍しいですね、なまえさんがこんな昼間からカフェで優雅にお茶だなんて。お仕事は…どうされたんですか?」

「園子ちゃんと大事なお話があったのでちょっと立ち寄っただけです。上司に任された仕事は午前のうちにちゃんと終わらせましたから」

「………大事な話、ねえ」

「ウエイターさん顔、こわいですよ?」

完全に作りものの笑顔を浮かべる降谷(今は安室だけど)さんに「ミルクティー二つで」と言ってメニューを畳む。
凄い低い声の「かしこまりました」を聞いた後、お手洗いに行ってた園子ちゃんが戻ってきた。

「なまえさんすみません、急にお呼びだてしちゃって」

「ううん大丈夫だよ、それより来て早々申し訳ないけど私はその秘書さんとは会うつもりはないから…断ってもらっていい?」

「え、会わないんですか?」

意外、みたい目で園子ちゃんが目を瞬く。

「連絡先は間違って消しちゃっただけなんですよね?嫌ってるわけじゃないならとりあえず会ってみればいいじゃないですか!」

「いや、でも好意があるわけでもないし」

秘書さんの連絡先を消してしまった事は園子ちゃんに正直に言った。
間違って消しただけならまた園子ちゃんに教えてもらえばいいだけの話だけど、あえてそれをしなかったのは…やっぱりそういうことである。

「なまえさん、次の日曜暇ですか?」

「日曜?仕事は休みだけど」

「実は最近鈴木財閥がスポンサーを務める遊園地が都内にオープンして日曜蘭とガキンチョも連れて遊びに行くことになってるんです、よかったらそこに秘書も連れてくんで」

皆で遊ぶなら問題ないですよね?って園子ちゃんはめっちゃ名案みたいな顔してるけど。

「些細な出会いを大切に!ですよなまえさん!」

「確かにそれは私も思うけど」

「奇遇ですね、日曜日は僕も空いてますよ」

カランと氷が音を立てて机に注文したミルクティーが置かれた。
全く関係ない声に園子ちゃんと同時に顔を上げればさっきとはなんだか違う意味でこわい笑顔を浮かべる降谷さんの姿。

「ほんとですか?なら安室さんも是非〜!」

「え。待った待った待った園子ちゃん!この人も!?この人いる意味ある?」

「酷いな〜なまえさん、僕達の仲じゃないですか」

どんな仲だ、と心の中で盛大にツッコミを入れた。私にとって降谷さんは鬼畜上司以外の何者でもないが。

「じゃあ私早速帰って秘書に伝えておきますね。次の日曜日、東都遊園地の入り口に開園時間待ち合わせで!」

それじゃあまた!と颯爽と店を立ち去った園子ちゃんに私はぽかんと間抜け顔。まだ了承すら出してないのに事が色々と大変な方向に向かってしまった気が…

「楽しみですね、なまえさん」

でも一番はほんと、何考えてんだこの人。



もどる

露草