「バカなのかお前は」
「な、バカとはなんですかバカとは!」
「待ち合わせの時間になっても仕度が出来てないなんてバカとしか言いようがないだろ」
「っ…………ご尤もでございます」
刺す様な降谷さんの言葉に珍しく素直に非を認める。
自宅のマンション前に止められた降谷さん自慢の愛車に乗り込み私達は約束の東都遊園地へと向かった。
「で?」
「今日はその…溜まった仕事を朝から片付けてたら仕度始めるの遅くなっちゃって…」
「本当の理由を話せ、無駄な嘘はつくな」
「………………服を迷いに迷ってたせいで仕度が遅れました」
『たまにはなまえさんもとびきりオシャレしてきてくださいね!』園子ちゃんからそんなメールが入ったのは約束の日曜日である今朝のこと。
皆で遊園地とは言え、好意を寄せられてる男性と会うんだから身だしなみには手を抜くなとしっかり釘を刺された。
…案の定ジーパンにパーカーでも羽織ればいっかと軽く考えていた私には衝撃的なメールで。慌ててクローゼットを開いてアレでもないコレでもないしてるうちに気づいたら待ち合わせ時間になっていたのである。
「それで、迷いに迷った結果がそれか」
「……やっぱり似合いませんかね」
淡いピンクのロングスカートに白のトップス、家にあった唯一のオシャレ服。ついでに普段は束ねてる髪も今日は少しだけ巻いてみた。
「…似合ってないなんて言ってないだろ。ただ男の為に飾るなんてお前らしくないな」
「いや男の為と言うか園子ちゃんの言いつけを守っただけと言うかー…惚れないでくださいよ」
「調子に乗るな」
ハンドルを握る降谷さんから視線を逸らし窓の外を黙って見つめる。
てっきり似合わないとひと蹴りされるとばかり思ってたから降谷さんの言葉は予想外で。褒められたわけでもないが少し調子が狂った。
「でも降谷さんが自宅まで迎えに来てくれて助かりました。遅刻は確定ですが少し到着時刻は早まるので…ありがとうございます」
「礼には及ばない。どうせ目的地は一緒なんだから余計な荷物を運ぶだけと思えば」
「…いちいち言い方が腹立つんだよなー」
「なんか言ったか?」
「いえなにも」
そんなやりとりをしながら車を走らせることうん十分、外には大きな観覧車が見え始めた。
流石鈴木財閥がスポンサーを務めた遊園地なだけあって大きさが他と桁違い、この間もテレビで特集組まれてたし。
どうなることやらと少し不安だったがいい歳して楽しみになってきた。
チラリと横目で降谷さんを見れば赤信号で停車しても外の景色には目もくれずで。
「……降谷さんって、今日何しに来たんですか?」
「なんだ今更。遊びにきだんだろ」
「でも遊園地に全く興味なさそうですが」
「………」
図星かい、と思いつつなら尚のこと降谷さんがわざわざ私と園子ちゃんの会話に割り込んで、しかも超貴重な休みを潰してまでついてくる意味がわからない。
「自分が何やってんだか…俺にもよくわからない」
「降谷さん………」
ちょっと休まれてはいかがですか。
似た者同士F
車を停めて降谷さんと待ち合わせ場所へと向かうと園子ちゃんが私達に気づいて駆け寄ってきた。
「もーなまえさん、遅いですよ!」
「ごめん、ちょっと諸事情で…」
「けどちゃんと服選んできてくれたんですね!いつもみたいにスーツ着てこないか不安だったんですよ」
スーツは流石にないが園子ちゃんは良い線ついてる。
「蘭とガキンチョ達は先に中入ってるんで、安室さんと私はそっちに合流しましょうか!」
「え、園子ちゃん私は?」
降谷さんに駆けよった園子ちゃんにそう問いかけたら彼女は指で私の背後を指して。
「なまえさん初めまして。橘と申します、今日はよろしくお願いしますね」
「……あ、」
例の、写真で見るより何十倍もイケメンな眼鏡秘書さんが私の背後に立っていた。
橘と名乗った彼にぎこちない素振りで私も頭を下げればその整った顔で微笑まれて。
そして次に橘さんは何故か降谷さんへと向き直った。
「園子お嬢様から行きつけのカフェ定員さんもご一緒に、と如何ってましたがあなたが安室さんですか?」
「はい、園子さんにいつもご贔屓にしていただいて」
「なまえさんの古くからのお知り合いでもあるんですよね、どうぞよろしく」
「……………よろしく」
爽やか笑顔の橘さんとは裏腹、降谷さんの笑顔が怖いと感じたのは私だけだろうか。
「じゃあ挨拶も済ませた事だし!そろそろ別れて早速中に…」
「え」
確か当初の予定は「皆で」遊園地を回る予定だったはず。
話が違うぞ!!と園子ちゃんを見たらパチンと可愛くウインクをされた。
どうやら最初から彼女は私と橘さんを二人きりにする予定だったようで。
しかしその計画は思わぬ所で狂いを見せた。
「待ってください園子さん、せっかくの遊園地ですし皆で回った方が絶対楽しいですよ」
「え?でも安室さんそれは…」
「橘さんもそう思いますよね?」
遊園地なんてそんなに興味ないくせに、やたら粘る降谷さんに園子ちゃんは少し困った顔をして。
「ええ、私はどちらでも構いませんよ」
……どうなる、この遊園地。