日曜日の遊園地。
家族連れから恋人同士、友人などと楽しそうに戯れる人々の中。
「……………あの、なまえさん」
園子ちゃんが歩きながらこっそりと私に耳打ちをしてきた。
「いいんですか?橘と二人っきりにならなくて」
「いいも何も、最初から二人とか私逆に無理だから」
「でもなんか、思ってたのと計画が違うと言うか…」
そう言って園子ちゃんは前方を歩く降谷さんと橘さんに眉根を下げているが正直私は降谷さんが集団行動を希望してくれて助かった。
………まあこの場の雰囲気は決して良いとは言えないが。
色々頑張ってくれた園子ちゃんに若干の申し訳なさも感じつつ入場ゲートから暫く歩いた所で降谷さんがこちらに振り向いた。
「お二人共、最初は何に乗りたいですか?やっぱりメリーゴーランド?」
マップを持っている降谷さんのアトラクションチョイスが初っ端からおかしい。
「いや何故にメリーゴーランド?この年では流石にきついです、他のにしましょうよ」
「きつくないですよ、なまえさんみたいな綺麗な女性なら特に」
そう言って「ね?」っと爽やかスマイルを浮かべた降谷さんに園子ちゃんはキャッキャ騒いでいるが私は鳥肌しか立たなかった。
キャラ作りも大変だなと同情した表情したら何かを察したらしい降谷さんの眉間がピクリと動く。
「仕方ない、ではメリーゴーランドは諦めてみんなでジェットコースターにでも乗りましょうか」
「………え」
「あ、それともフリーホールの方がいいですか?なまえさん」
押し黙る私の反応を楽しむように今度は含みのある笑みを浮かべた降谷さん。
どうやらこの鬼畜上司、私が絶叫系が苦手なの知っててわざと提案してるようで。
前に降谷さんと昼食時行ったラーメンで放送されてた遊園地の特集番組、激しいコースターに揺られる芸能人を見て「むり、しぬ」と私が漏らした言葉をどうやら覚えていたようだ。
「もしかしてなまえさん絶叫系苦手なんですか?」
青ざめる私に助け舟を出してくれたのは意外にも橘さんだった。
「はい………あまり得意ではないです、すいません」
「大丈夫ですよ、実は僕もダメなんです。よかったら皆さんで楽しめるあれに入りませんか?」
あれ、そう言って橘さんが指差したのはおどろおどろしい看板が掲げられたお化け屋敷だった。
再び硬直した私に降谷さんは笑いを堪えるのに必死そうで。
…今度自慢の愛車でポテチ食ってやる、私は静かに胸に誓った。
似た者同士G
子供の頃、お化け屋敷で迷子になったのがトラウマでそれ以来ずっと避けてきたがまさか再び足を踏み入れることになるなんて。
「絶叫もお化け屋敷もダメでよく今日遊園地に来ましたね」
だから大人しくメリーゴーランドにしとけばよかったのに、と他人事の様に呟く降谷さん。だけど私は知っているどーせこの人はいい歳してメリーゴーランドに乗ったら乗ったで絶対笑うに決まってる。
「僕はそんな酷い人間じゃありませんよ」
「どーだか」
「あ、なまえさん前」
隣を歩いていた降谷さんが突然足を止めたから釣られて私も立ち止まる。
そして視線を前方へと向けたら突然上から首なし人形が降ってきて。
「ーーっっ!!??」
声にならない悲鳴を上げ勢いよく後ずさったら段差で見事にずっこけた。
降谷さんもまさか私がこけるとは思わなかったのか目を見開きながら伸ばされた手。
しかし降谷さんの手が届くより先、私を背後から支えてくれたのは橘さんだった。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます…すいません」
「いえ、僕もまさかなまえさんがお化け屋敷苦手とは知らずに…すいません」
橘さんは本当に申し訳なさそうに目を伏せながら「よろしければ」と私の手を優しく握った。
「出口まで僕が案内しますから、なまえさんは僕の後だけついてきてください」
こっそり耳打ちされた言葉に動揺しながらも軽く頷いて私は咄嗟に降谷さんへと視線を向けた。
暗くてどんな表情をしてるのかはわからないが後ろめたい気持ちになるのは何故だろう、降谷さんが今どんな顔をしてるのか確認せずにはいられなくて。
さっきまでの恐怖心はどこへやら、橘さんに手を引かれながらぼーっと足を進める。
気づいたときには既に出口で外に出ると太陽の光があまりにも眩しくてうまく目をあけられなかった。
「橘さんありがとうございました、おかげで助かりました」
「いえ、それより勝手にすいませんでした…手」
握られていた手が離れくるりと慌てて後ろを振り向いたが私たちがハイペースで歩きすぎたせいで園子ちゃんと降谷さんはまだお化け屋敷から出てきてはいなかった。
無意識にほっと胸を撫でおろした私に橘さんは静かに息を吐く。
「まだ会って間もないけど完全に完敗気分だなあ」
「え?」
「なまさん達、僕はうまくいくと思いますよ」
橘さんが突然口にした言葉に目を瞬けば「ちょっと飲み物買ってきますね」と彼は私を残し人混みの中に消えて行った。それと同時に半泣きの園子ちゃんがお化け屋敷から飛び出してきて、その後に続いてきた降谷さんと目があってあからさまに逸らしてしまった。
「怖かっだ〜なまえさん!!」
「うん、私も…」
「あれ…なまえさん一人?まさか途中で置き去りに…」
「まさか。橘さんなら今飲み物を買いにあっちに、」
橘さんが向かっていった方角を指差せば園子ちゃんは「げっ、」と顔を顰めた。見れば少年探偵団の子供達がひらひらこちらに手を振りながら駆け寄ってきているのがわかる。
…そーいえば元はみんなで回る予定だったもんね。
らしくないオシャレして無理しすぎた気がする、色々と。
満面の笑みを浮かべる子供達を見て今日は私も童心にかえって目一杯遊んで帰ろ、そんなことを思いながら手を振り返していたとき不意にグイっと手を引かれた。
「帰るぞ」
「は…え、帰る!?なんで」
私の手を引いたのは他でもない、降谷さんだ。
理由は説明されないまま園子ちゃん達に「またポアロで」なんて言って降谷さんは私を引きずるようにして入場口の方に足を進めてく。
だがゲートを潜ることはなく、その手前で突然進路を変えて連れてこられたのは観覧車だった。
「降谷さん?どうしたんです、お化け屋敷で変なのにとり憑かれましたか?」
「いいから乗れ、時間がないんだよ」
苛立たしそうに私を強引に観覧者の中へと押し込むと自分は向かいに座ってスマホを弄りながら大きくため息をついた。
「……なにかあったんですか?」
「ああ、風見から連絡で前々から目をつけていた反社組織の新しい情報がわかったって」
「あー…じゃあ今から戻ってまた仕事か…」
せっかくだしみんなと遊びたかった、なんて言ったらまた怒られるであろう。
ここは素直に従うとして、疑問が一つ。
「なんでこの状況で観覧車なんです?」
「…………乗りたかったんじゃないのか?行きの車からずっと見てただろ、お前」
足を組みながら外の景色を眺める降谷さんに返す言葉がすぐに浮かばなかった。
意外や意外、あの鬼畜上司が私の為にわざわざ。
心の声が表情に出てしまったのであろう、すごい形相で「俺だってすぐに帰るほど鬼じゃない」と言われた。
「わかってますよ、ありがとうございます」
「で、結局…あの男とはどうなんだ」
「橘さん?んー多分…」
いや確実にもう次はない。
飲み物を買ってくる橘さんの背中を見たときこれで終わりだろーなーってなんとなく察した。…まあそもそも始まってもいないんだけど。
なまえさん達ならうまくいくと思う、その言葉を思い出して降谷さんをじっと見つめたら観覧車が大きく揺れて私は勢いよく向かいの降谷さんへと倒れこんだ。
「っすいません、重いですよね!今退きます!!」
「多分どうした」
「え、この状況で話続けます!?そんなに気になりますか?」
「当たり前だ、突然現れた男に掻っ攫われたら俺の立場がないだろ」
「え」
降谷さんの一言に固まれば向こうもそこで自分の発言の意味に気づいたらしく。
私は降谷さんに体重を預けたまま、降谷さんは私を支えたまま暫くフリーズして、そして、
「お前は俺の部下なんだから、気にするのは当然だ」
さっさと退け重たい、と身体を押し返されて再び自分の席に戻った頃にはもう頂上はとっくに過ぎていた。
自分から話し続けさせたくせに酷い言われようで頭にきて「降谷くそう…」と呟いたら必殺チョップを食らった。
降谷さんの言葉に一体何を期待したんだろう、私は。
(あれ…降谷さんになまえ、今日は遊園地行ってたはずじゃ…)
(風見さんが例の反社組織の情報がわかったって言うからわざわざ戻ってきたんですよ!!!)
(確かに降谷さんに連絡はしたがそんなに急ぎの用じゃ…)
(風見、ちょっと話そうか)
(え?)