小腹が空いた。
鞄をごそごそ漁って財布を取り出したら丁度珈琲を淹れて戻ってきた風見さんが「肉まん」と一言。
「高いですよ」と軽く顔を顰めながら警察庁からほど近いコンビニへ。
自分用におにぎりを何個か買ってからレジへ向かうと丁度地獄の辛子肉まんが売ってたから迷わず購入。
気だるそうなバイトが風見さんへのプレゼントを用意してるうちにふと菓子売り場の方に目を向けて、私はそっと目を細めた。
執拗に辺りを警戒しながら手に持つ黒い鞄のチャックを開けた男。
男が次にとった行動に仕事が増えた、とため息をつきつつ差し出された肉まんを受け取った。
似た者同士H
しくった。
まさかあの男ナイフを隠し持っていたとは。
しかも声をかけたと同時に近くにいた子供を人質に取られたのは想定外で、人命救助を最優先したら腕を軽く切られてしまった。
破けたお気に入りのスーツに再び深く息を吐いて警察庁へと帰る途中、前方の交差点に見知った人影。
「なまえーさん!」
そしてそっちに気を取られていたせいで背後から突然声をかけられた私はびくっとおもいきり跳ね上がった。
「っびっくりしたあ…園子ちゃんか」
「偶然ですね!なまえさん近づいても全く気付かなないから…何見てたんですか?」
咄嗟に傷を負った腕をコンビニ袋で隠す。園子ちゃんは先ほどまで私が視線を向けていた交差点を見て「あれって…」と小さく呟いた。
「安室さん…………と誰ですか?」
「さ、さあ…」
この距離からでも目立つ金髪は紛れもなく我が上司。
本日は私服姿で隣には綺麗な黒髪の女性を連れていた、雰囲気的になんとなく…仕事関係の付き合いではない気がして思わずじっと見てしまった。
「なまえさん!!なにぼーっとしてんですかっ一大事ですよこれは!!」
「いやなにが?」
「なにがって、安室さんがよその女に取られていいんですか!?」
園子ちゃんの迫力に一歩後ずさり、そもそも安室さんは私のものでは…と呟いたら「なにを今更!!」と切り返されて私はぽかんと間抜けずら。
「橘が言ってましたよ?なまえさんには安室さんがいるから僕の出る幕はなかったーとかなんとか」
「いやー…うん、なんか色々と違うね」
途中で帰っちゃったし日曜は橘さんにも園子ちゃんにも申し訳ないことをしたとは思っているが、まさか話がそんな方向に向かったいたとは。
いやいやと再び首を横に振ればポケットのスマホが震えた、風見さんからだった。
「コンビニ行くのに何分かかってるんだー…………ってやば、ごめん園子ちゃん私戻らなきゃ」
「え、安室さんたち尾行しなくていいんですか?」
「尾行って…してもすぐバレちゃうよ」
風見さんに土下座スタンプを送信し交差点を見ればもうそこに降谷さんの姿はなかった。
女とイチャついてる暇がったらこっちの仕事も手伝えと心で毒をはきつつ大胆な発言をする園子ちゃんに苦笑いを浮かべたとき、
「けどなまえさんは好きなんですよね?安室さんのこと」
だからなんでそうなる。
*
初めて出会ったときから今でもずっと降谷さんは上司だ。そして降谷さんにとって私は部下。
今の仕事を辞めたらもう会うことはない。
それ以上なんて望んではいけない気がした、別に望みもしないけど。
「やばい、絶対怒られる…」
コンビニにちょと買い出しのつもりが相当な時間がかかってしまった。
けどそれよりも冷え切った肉まん渡した方が雷くらいそう…まあそもそも辛子入り買った時点でお叱り確定か。
そんなことを一人ボヤキながら乗り込んだエレベーター。
風見さんの待ち構える執務室の階ボタンを押して扉が閉まる寸前で、ガタンと音と共に足が割り込んできた。
「悪いが乗せてくれ……ってお前か」
「げ」
「人の顔見てそのリアクションはやめろ」
乗客が二人になったところで今度こそ扉が閉まる。
先ほど見かけた格好のままの降谷さんが私の横に並んだ。
「またサボりか」
「そちらこそ、デートはもう終わったんですか?」
「デート?…なんの話だ」
「さっき綺麗な女性を連れ歩いてたとこ、お見かけしましたよ」
黙っとけばいいものを、言わなくていいこと口を突いてでてくる言葉に我ながら呆れる。
私の問いかけに降谷さんは暫く黙り込んで壁に背中をくっつけた。
「デート、そう見えたならそうなのかもな」
「…どうやってあんな綺麗な人だまくらかしたんですか」
「随分と人聞きの悪い言い方してくれる………まあ情報のために騙しているのは事実だが」
情報のため、それを聞いてなんだか身体の力が抜けるような感覚がした。
静かに息を吐き目を伏せたと同時に降谷さんの手が腰に回り、くるりと身体を向かい合うように反転させられて。
「安心したような顔だな」
「そんな顔全っっくしてません。というか手、流石にセクハラで訴えますよ」
「可愛げのない奴………それより、お前は仕事サボってどこ行ってんだ」
「コンビニです、小腹がすいたので」
「コンビニ行っただけなのにこんな怪我するなんて逆に器用すぎるだろ」
降谷さんの呆れた様な眼差しを一身に浴びながら傷ついた手を慌てて後ろに回す。
降谷さんや風見さんなら傷一つなく処理できただろうけど私は器用な人間じゃないから無茶して身体張らないとあの子供を守れなかった。
「なんかあったら俺を呼べ。無駄に生傷作られた方が見てて痛々しい」
「…………呼んだら来てくれるんですか?…何処にいても」
向かいにいる降谷さんに手を伸ばしかけて、やめた。
慌てて手を引っ込め降谷さんを見れば何故だか口元を手で覆いながら彼は私の頭に手を乗せそのまま乱暴に髪を乱した。
「っなにするんですか、ほんとにセクハラで訴えますよ!!」
「お前はそればっかだな。まあ止めないけど」
「んなっ」
「ちゃんと行くから、俺の目の届かないところであんまり無茶するなよ」
珍しく優しく細められた降谷さんの瞳に自分の顔がじわじわ熱くなるのを感じながら園子ちゃんの言葉を思い出す。
なまえさんは好きなんですよね?安室さんのこと、なんて。
意識すると今まで通りいられなくなるから、私はまた違うって自分に言い聞かせた。