番外2-2

そんなこんなであっという間に月日は流れ1か月ちょっとが経過。桜は散って新緑が青々しい季節になり、つい先日ようやく今年の教育係の名が終わった。
今日からだいぶ時間に余裕もできたので早速沖田くんと昼間にこっそりご飯の約束をして。
現地集合のため仕事が終わってからすぐ、慌ただしくエレベーターに乗り込んだ。
定時は無理だったけどまだ外は明るいし、久々にゆっくりできそうだなってるんるんで会社を出てすぐ。誰かに肩を叩かれた。

「お疲れ様です。なまえ先輩」

「あれ、田中くん。どうしたの?」

確か定時で上がったはず。「忘れ物?」と聞いたら「なまえ先輩を待ってました」と言われた。

「短い間でしたが本当にお世話になりました。…それで、よかったらこの後飲みに行きませんか?」

「えっと、それは…二人で?」

「はい。うまい焼き鳥屋知ってるんで」

他の新人の子達も一緒なのかなと思ったら。
あーいうタイプは意外と侮れない、いつかの沖田くんの言葉がチラついて掻き消すように首を振った。
自惚れるには早すぎる、私だって沖田くんとよく二人で飲みに行ってたじゃないか。…結局恋愛には発展したけども。

でも、どちらにせよ今の私は異性と二人で飲みに行ったなんて沖田くんに知られたらとても大変なので。申し訳ないけどやんわり断ろう。

私が口を開くより先、困ったのが顔に出てしまってたのか田中くんが続けて口を開いた。

「仕事での悩みがあって!…なまえ先輩に相談に乗ってもらえたら、心強いなと思って」

ど、どうしようすごい断りずらい。
悩みがあるなら会社で聞きたい。けどもし思い詰めてたらと思うとそれも言い難いし…

「悩みがあんなら会社で言いなせェ。なまえ先輩のこれからの時間は俺のモンなんでィ」

肩にずしりと重みを感じて、頭上から聞き慣れた声が。
顔を上げれば沖田くんが後ろから私の肩に腕を回して立っていた。

「全然こねえから迎えにきやした」

「あ、ありがとう…」

助かった。思ってたこと沖田くんが全部代弁してくれたし。ただ、私と沖田くんを交互に見る田中くんの視線がしぬほど気まずい。
でもって沖田くんと付き合ってることはできればバレたくなかったけど、さすがにもう誤魔化せない気が、

「明日の会議の打ち合わせ。早く進めないと間に合わなくなりやすぜ」

「…打ち合わせ?」

沖田くんのまさかの助け船に私が一番目を剥いた。まだ隠す気あったことに驚いてしまった。
ね?っと言葉と同時に視線がぶつかって、私も慌てて口を開く。

「うん、実はそーなの。前々から沖田くんと約束してて…」

ごめん田中くん。ほんとは私のリクエストで新大久保のサムギョプサル食べに行くだけなんだけど。
「なら、また別の日ならいいですか?」と問いかけてきた田中くんに私ではなく沖田くんがすかさず口を開いた。

「なまえ先輩にはおっかねェ彼氏いるんで、下手に手ェ出したら殺されやすぜ」

自分で言うかと思いつつ。「話あんなら会社でいいなせェ」ともう一度沖田くんが言うと田中くんは頭を下げて帰って行った。…なんだかとても申し訳ない気もするが。

「ったく、油断も隙もねーや」

「大丈夫かな。田中くん…」

「まさかなまえ先輩、あいつの言う悩みってまじで信じてやす?」

「え、違うの?」

「あんなモン百億パー下心でさァ。俺が保証しやす」

人が良すぎまさァ。ため息混じりに呟いて沖田くんは私の手を引くとすっかり暗くなってしまった夜道を歩き出す。
沖田くんが保証するならそうなのか?と口に出したら怒られそうだけど。

暫く歩いたところで信号に捕まって。二人並んで立ち止まったところでもう会社から離れたからなのか、指を絡めてぎゅっと握られた。

「田中。アイツ大学の後輩なんでさァ」

「え!うそ!?じゃあ元々知り合いだったの?」

なんという新事実。

「いや、関わったことはねーです。向こうは俺のこと知らねーだろうけど。アイツ、俺の学年でも女絡みでいい噂聞かねえやつだったんで」

だから侮れないなんて言ってたのか。
その話聞いても今の田中くんからはなかなかイメージできないけど、人は見かけじゃないってことなのか。

「言ってくれればよかったのに。聞いててもうまく交わせたかわからないけど…」

「仕事には関係ねぇ話だし。それになまえ先輩が一生懸命育てようとしてんのに、変な先入観与えたくねーだろィ」

真面目か。けどかなり好きかも、沖田くんのそーいうとこ。
思わず頬が緩んで締りのない表情で沖田くんを見たら沖田くんはまだ、かなり不服そうだった。

「ほんとーは誰も近寄らせたくねぇんですが。大っぴらにしたら仕事しずれーし」

「そうだねぇ」

私もあの頃はいつも、いつか後ろから刺されそうと思いながら夜道を歩いてたよ。

「いっそおんなじ名字になっちまえば、わかりやすいと思いやせんか?」

「そうだねえ……ん?」

「なりやすか。沖田」

すぐに頷いてしまったがちょっと待って。
沖田くんを二度見したら至って真面目な顔で。あまりにもさらっと言うから聞き間違いかと思った。

「俺ァはなからそのつもりで付き合ってやすけど」

「そ、そうかもしれないけど。っよくもまあそんなさらりと」

「ちゃんとした場所でもう一回言うんで、それまでもう少しだけ待っててくだせェ」


意地悪で強引なとこも多いくせに、いつも真っ直ぐに思いをぶつけてくるからたまに眩しすぎて目が潰れそうになる。
「今日こそ飲みすぎねぇでくだせよと」と私の額を小突いた沖田くんに案外夢中になってしまってるのは沖田くんより私の方なのかもしれないな、なんて。


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露草