番外3-2

「同窓会ですかィ?」

「うん。明後日、ちょうど沖田くんがお姉さん家に行く日なんだけど」

結局ほんとに夜になっちまった。
いつもなら痕つけようとすると抵抗すんのに今日はそんな余裕もないのか、なんでも受け入れ縋ってくるなまえ先輩を気の済むまでいじめ倒してしまった。
おかげでへろへろになってしまったなまえ先輩とシャワーだけ浴びて再びソファに寝転がる。

服を着る時に自分の身体に残る無数の痕を見て、俺がさっきの電話でいじけたのがわかったのかなまえ先輩は腕の中で聞くより先に口を開いた。

「前々から参加するからどうか聞かれたのに、幹事の同級生から電話くるまで返事するの忘れてて…。行くって言っちゃったけど大丈夫だった?」

「たまの同窓会断らせるほど小せえ男じゃねーです」

「ありがとう。新宿なんだけど、終電前には絶対帰るから」

胸板に擦り寄ってきたなまえ先輩の髪をさらりと撫でる。
同窓会でハメ外して浮気、なんつーことは全く心配してない。問題なのはそこよりなまえ先輩の酒癖だ。
ちゃんと一人で家に帰れるかの方が心配である。

「先輩がよければ帰り、新宿駅まで迎えに行ってもいいですかィ?」

「私は全然いいけど沖田くん大変じゃない?お姉さん家行ってからわざわざ新宿なんて」

「ンな遠くねーんで大丈夫でさァ」

「ありがとう。じゃあ終わる時間わかったら早めに連絡するね!」

ぎゅっと首元に抱きついてきた先輩の背中に腕を回す。くそ、かわいいじゃねーか。
やっぱ一刻も早く沖田にしてえな、なんて。恋愛に興味ねえつってた社会人なりたての俺が見てたら鼻で笑われそうだ。ここまで骨抜きにされるなんざ思ってなかったら不覚である。






2日後。一旦自分の家に帰って支度をしてから姉上の家に向かった。
姉上の好きな激辛せんべいを買って久々に二人でうまいモンでも食おうと思ってマンションのインターフォンを鳴らしたら出てきたのは姉上じゃなくって見知ったV字。


「久しぶりだな…総悟」

「……なんで土方がいるんでさァ」

自分でもびっくりするくれえ地を這うような低い声が出た。向こうもそんな俺を見て元々悪い目つきが更に険しくなる。
暫く二人で固まったまま睨みあっていると、リビングの戸が開き土方の後ろに姉上が見えた。

「総ちゃん、待ってたのよ。いらっしゃい」

「お久しぶりです!姉上」

目の前の土方をスルーして笑顔で姉上を見たらため息をつかれた。

「早く入れよ」

「言われなくても入りまさァ」

つーかなんでお前がいんだよ、と姉上がいるから二度は口には出さないけれど。
手土産を渡すと姉上が入れてくれたお茶がテーブルに並んでおり、俺と向かい合うような形で椅子に並んで座った土方と姉上に今日土方がここにいる理由が予想がついた。

土方は高校時代の剣道部の先輩で俺の2個上。土方と同級生だった姉上はマネージャーをしていて、入学した時に初めて二人が付き合ってるのを知った。
もうだいぶ長げーし、そろそろだとは思ってたがやっぱりか。

「…おめでとうございやす、姉上」

昔っから生簀かねえ野朗、こんな奴が義兄になるなんて。正直めちゃくちゃ嫌だが野朗と今後の話をする姉上が今まで見たことないくらい幸せそうに笑うモンだから、もう俺からは何も言うことはない。薬指にひかる指輪にふと、なまえ先輩の顔が浮かんだ。


「結婚式は冬の予定なんだけど、総ちゃんお休みとれるかしら?お仕事忙しいものね…」

「しんでもとります!とれなかったら会社燃やしてでも行きます!」

「まあ、またそんなこと言って」

「冗談です。今は前と違って上にも恵まれてるんで、大丈夫です」

「上って…もしかして、前に私のお見舞いに行かせてくれたって言ってた先輩のこと?」

退院前日に、総ちゃん駆けつけてくれたものね。と思い出したように言う姉上。なまえ先輩のこと、その時少しだけど話した気がする。付き合ってからは特に名前を出してはないが。
『先輩』という単語を隣で聞いて土方もまた「ああ…」と思い出したように呟いた。

「あいつか。合コンにいたみよじ」

「人聞き悪い言い方すんじゃねえや。あれは向こうも訳ありなんでィ」

「おまえら店出たあと帰ってこなかったもんな。付き合ってんのか」

つーか姉上の前でさらっと俺らが合コン参加したこと言うんじゃねえやとも思ったが。
そもそもあれは土方も俺も姉御にフラれてヤケになってた近藤さんに誘われて仕方なく行ったやつ。姉上のリアクション的に前もって土方から参加するという話は聞いていたのであろう…全く驚いてなかったし。

土方のくせして報連相ができるじゃねーかくそ。

「総ちゃん、お付き合いしてる方がいるの?」

「はい、今度姉上にも紹介します。僕たちも近々結婚しようと思ってるので」

「まあ!そうなの、おめでとう総ちゃん」

「決まったら近藤さんにも伝えてやれよ」

ついでみたいな報告になっちまったがまあいいか。事実だし。

その後は仕方なく三人で姉上の作ったうまい飯を食って、並んで皿洗いする土方に殺意をこめた眼差しを送ってたらなまえ先輩からラインが入った。
22時には新宿駅つきそう!という文に返事をし、時計を見たらあと1時間後。
すこし早めに着いておくかと姉上に挨拶をして土方には「泣かしたらころす」とだけ言って家を出た。

夏の夜、昼間ほどではないがあちーな。

電車に揺られること暫し。長期連休で賑わう新宿駅。
ついて少ししてから東口の交番前にいやすとメッセージを送り先輩を待つ。すぐに既読がついて先輩の好きなブタみたいな顔したうさぎのOKスタンプが届いた。何度見ても俺には可愛さがわからねえやつ。

暫くして、私服姿の派手な若者が多い中遠くにぼんやりオフィスカジュアルな格好の男女が見えた。
女の方はキョロキョロ辺りを見渡して、こちらに気づくと笑顔で駆け寄ってきた姿になまえ先輩だとわかった。

「沖田くん、ごめんね!待った?」

「今きたとこでさァ」

「思ったより早く終わって!お迎えありがとう」

先輩の連れの男は同級生なのか、俺の姿を見ると「じゃあここで」と行って改札の奥に消えてった。
「帰ろっか」となまえ先輩に腕を引かれ俺たちもホームへと向かう。

「今日はンなに酔ってなさそうですねィ」

「うん!酒癖悪いって言われるから今日は…我慢した」

「懸命な判断でさァ」

えらいえらいと頭を撫でたら「子供じゃないんだけど」と口を尖らせた先輩。グロスで濡れた唇がやたら目について、かわいかったからどさくさ紛れに一回キスしといた。


「っ!外だよここ!」

「見せつけとこーかなって、俺たちの中。先輩さっき男連れてやしたし」

「変な勧誘多いからって駅まで送ってくれただけだよ」

「ほら、また簡単に下心を信じる」

やっぱ迎えにきて正解でさァ、毎度油断も隙もありゃしねえ。
まだ人の多い電車に今度は二人で乗り込んでなまえ先輩の最寄駅を目指す。
駅について食べたいって言うからまたコンビニでガリガリくんを買って、冷たいアイスを頬張りながら夜道を歩いた。

「…なんかさ、いいね。一緒に同じ道歩いて帰るのって」

「急にどうしたんですかィ」

「なんとなく思っただけだよ。…最近よく一緒に歩いてるからかな」

今日はコーラにすると言って買ったアイスを食べながら先輩は独り言のように呟く。

しゃりしゃり音を立てながら空を見上げた先輩に、ずっと言おうと思って断られたらと柄にもなく言えなかったことを口にしてみた。

「一緒に住みやせんか」

「え?」

「結婚してからも住める家探して、今から一緒に暮らしてえなと思いやして」

鳩が豆鉄砲をくらったような顔して立ち止まったなまえ先輩。暫く固まっちまったからやっぱまだダメかと薄暗い街頭の下、少し諦め気味で返事を待ってたら突然腕を引かれて、初めて先輩からキスされた。

「…ソーダの味、するねっ」

「先輩はコーラ」

自分からしたくせに恥ずかしいのか目線を逸らして唇を離したなまえ先輩。再びアイスを口に入れて何事もなかったように歩き出したから少し遅れてその後を追ったら先輩がこちらにくるりと振り向いた。

「じゃあ早速、明日探しに行く?家」

予想外の言葉に珍しく俺のが目を瞬く。そしてすぐに俺以上にその気ななまえ先輩の返事に思わず口角が緩むのを感じた。

「お盆中に出かけたい場所、見つかってよかったですねィ?なまえ先輩」

「なっ、元は沖田くんが言い出したんでしょ」

「そんな急とは思わなかったんで」

「っじゃあやっぱり明日はうちにいる!」

「へいへい。俺が行きたいんで絶対明日行きやしょう」

今まで俺ばっかって思ってたがもしかしてこの人、俺のことめっちゃ好きじゃねーか?と思ったら、なんだか余計にたまらなく愛おしくなった。

そんな夏の盆の夜だった。




*ブタみうなうさぎのスタンプLINEはうさまるのことです。貶してるようですが私はうさまるスタンプしか持ってないくらい好きです。

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露草