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「ねえ、聞いた?沖田くん最近彼女出来たらしいよー」

「うそー!ショック!私狙ってたのに!相手は!?」

「確か同じ部署の、名前は…」


最近、うちの職場はこの話題で持ち切りらしい。
休憩所で繰り広げられていたそんな会話、私は名前を聞き終わるより先に急いでその場を後にした。

私が気持ちを伝えたあの日。「好きです」っと私の口から発せられた四文字を耳にした沖田くんは特に驚くわけでもなく、かといって何かいうわけでもなくただ嬉しそうに笑ってただ強く抱きしめてくれた。
自分の気持ちに気付けなくて随分遠回りしたけど、精一杯伝えたその気持ちは見事沖田くんに届き、
そしてその日以来、晴れて私は今みんなが噂している沖田くんの恋人になったわけである。
だがしかし彼女になって初めて知った。元々ギャラリーが多いとは先輩に聞いていたけど、まさか沖田くんがこんなに人気あったとは…!


「ねえ、知ってる?沖田くんの彼女の話」

「あー!知ってる」


げ。次にやってきた化粧室。またしてもこの話題。…いったいどこまで広まってるんだ…。


「でも知ってる?今の沖田くんの彼女、実は元カノにそっくりらしーよ」

「え!あーじゃああれか。沖田くん前の彼女に未練たらたらな感じ?」

「多分ねえ」


あ、ラインずれたなんて呑気に化粧を直す女性陣達の陰で私は廃人と化した。
元カノ…とはつまり前の彼女?だよね。もうすこし話を聞きたい、だけどそういうわけにもいかないし。
私の胸にヤキモキとした感情だけを残し何事も無かったように化粧室から去って行く彼女達。最後にその一人と、目が合った気がした。






「なまえせんぱーい」

「…………」

「おーい、なまえ先輩。ピーマン焦げてやすぜ」

「っえ!?うそ!」


沖田くんに声をかけられてはっとした。
気づいた頃にはフライパンで焼かれてるピーマンの肉詰めが黒くなっていた。


「っあ〜やっちゃった…」

「ぼーとして、考え事ですかィ?」

「うん、まあ。ちょっとね仕事の事で…」


まさか昼間の話を気にしてたなんて言えないし。…かといって事実かもわからないのに本人に確かめるわけにもいかないし。

「…ふ〜ん。仕事、ねェ」

「…ごめんね、結構焦がしちゃった」


ほんとは外で御飯のつもりが沖田くんがなまえさんの手料理が食べたいなんて言うもんだがら仕事帰りそのまま急遽スーパーで具材を買って沖田宅へ。
ピーマンの肉詰めは得意料理だったはずなのに人は他のことに気をとられるとやはり本来の実力は発揮できないらしい。


「けどほんとーは?」

「ん?」

「本当は、何考えてたんですかィ」

フライパンを持つ手をぎゅっと握られ後ろから沖田くんが抱きついてきた。耳にかかる吐息に一気に心拍数が上がる。


「だ、だから仕事のこと、」

「今のうちに言っときやすけど、俺は独占欲がすげェ強い方なんでさァ」

「え、えっと」

「だからずっと欲しくて欲しくてたまらなくてやっと手に入った女がもし他の男のこと考えてたらーなんて思うと」

気が狂っちまいそうでさァ。
そう言って沖田くんは私の身体を自分の方へと向けさせると唇にキスを落とした。
溶けるような甘いキス、気持ちよくてずっと味わっていたいって思う。私っていつからこんなに沖田くんのこと、好きになっちゃったんだっけ。

唇が離れ目が合って、少しの沈黙の後静かに口を開く。

「…私も、こう見えて独占欲強いよ」

「どうしてそう思うんですかィ?」

「今日同じ部署の子の話、聞いちゃったんだけど。私が沖田くんの元カノに似てるって。だから付き合ってるんだって」


沖田くんは私を好きって言ってくれる。だけどいつから好きとか、何処が好きとか具体的な事は一つも聞いたことなかったから、信じてないわけじゃないけど不安になってしまった。


「馬鹿ですかィなまえ先輩」

「な、馬鹿って、」

「俺が最後に彼女作ったのは大学一年の時ですぜィ。今の会社の奴がそん時のこと知ってるはずないだろィ」

「…言われてみれば。でも、じゃあなんでそんな事言いふらしてたんだろう」

「嫌がらせだろィ、確実に」


沖田くんはやれやれという顔をしてもう一度強く私を抱きしめた。
その時、最後に化粧室を出て行く時目が合った子の事を思い出す。…あの子もきっとすきだったのかな、沖田くんのこと。

「何かあったら一人で抱える前にすぐ俺に言ってくだせェ」

「うん、…ごめんね」

「疑われたせいで俺のガラスのハートはボロボロでさァ」

「ガラスのハート…」

にはあんまり思えないけど、それは言えない。


「しっかり慰めてくれますよねィ?」


目の前で可愛い顔して厭らしく笑った沖田くん。
そんな沖田くんのおでこをべしっと叩いて「とりあえず御飯が先ね!」っと私もまた笑った。

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露草