「あ〜〜俺も彼女ほしいぃ〜」


ペース早いな、今日も。

飲みに行きたいとせがまれて、熊谷も含め三人で訪れたどろぶね屋。
前回猫田のとこで飲んだ時は、またべく杯をやって俺に向き続けるコマの軸に珍しくベロベロに酔った。

後輩達に肩を借りて家に帰ったらなまえがいて、その後らしくない事を色々口走ってあいつを困らせた記憶がある。

次の日覚えてるかと詰め寄られた時には、全部酒のせいにしてすっとぼけたけど。


もれなくその日に俺に彼女がいたことに加え、相手がなまえだった事を知ってから酒が入った時の兎原の口癖が増えた。


「彼女ほしいぃ…」

「何回言うんだそれ。水も飲めよ」

「どーやってなまえさんのこと騙くらかしたんスか裏道さぁん…弱みでも握ってるとか?」

「悪代官か俺は」

「俺も太腿にホクロある優しい彼女ほしぃい、なあ熊谷ぃ」

「知らん、この状態で振ってくんな燃やすぞ」


兎原の手を容赦なく振り払う熊谷。太腿にホクロ、と聞いて一瞬食べていた手が止まる。


「…どこで知った、それ」

「お、俺は足の裏にあるっスよ!なあ熊谷!?」

「すいません、生ビール追加で」

「熊谷!?なあて!」

「こいつ、この間なまえさんに詰め寄って体にあるホクロの位置、無理矢理聞き出してましたよ」

「裏切った上に語弊しかない言い方!」


違うんすよ!?

言って慌ててスマホを取り出した兎が「ホクロ占い」と書かれたサイトを見せてきた。
これを前に池照くんも含めてみんなでやったと。


「裏道さんもやってみます?当たるかは別問題で」

「俺の人間性とか興味あんの」

「………………ッス。」

「俺はありますよ」

「嘘じゃん!」


取り出した煙草に火をつける。なまえの顔がぼんやり浮かんだ。

…太腿にホクロ、確かにある。内側のしかもけっこー深いとこに。

思い出してるうち、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。


「あの裏道さん…。ダメ元でやっぱ一回聞いときます、悔いがないように」

「…なんだよ」

「なまえさんのホクロって太腿の内側っスか?それとも外側?」

「どんだけそれ知りたいんだお前」


熊谷の冷徹なツッコミを聞きながら、無視して再び冷奴を突いた。










最近仕事終わってからすぐ、スマホを確認するクセがついてきた。


『ご飯作って待ってます』

シンプルな文章と一緒に何故か好評だと木角さんが言っていた小鳥さんスタンプが一時間前に送られてきてて。

一気に軽くなる足取りに我ながら単純だなとは思うけど。

真っ直ぐ家に帰って玄関を開ける。

いつもみたくすぐ声がしなくて。明かりのついてるリビングに向かったら何故かハマってるらしい人喰いサーモンシリーズをまた流しながら、ソファで気持ちよさそうに寝息を立てているなまえがいた。

コートを引っ掛けてなまえの横に腰掛ける、顔にかかった髪を払ってやったらくすぐったそうに動いた口元に少し、口角が緩んだ。

いつもは俺のスウェットで隠されてる足が今日は持参したのか部屋着用のショートパンツで。珍しくソファに投げ出された無防備な生足。

起きないし、ズボンの裾をペラッと捲ってみたらやっぱりあった。

この前兎原がやたら興味持ってた太腿のホクロ。


「んっ」


指で上下に撫でてみたら眉間に皺が寄って、なんとも言えないくぐもった声が聞こえた。

足の付け根ギリギリの、白くて柔らかいそこに腰を曲げ唇を寄せる。

少し歯を立てた後に吸いついてみたら、なまえの身体が大きく揺れて。


「んっ……え、」

「起きた?」

「っ!?うらみちさん、なにして…、」

「見ての通りだけど」

「なにがっ!?」


寝起きで力が入らないのかなんとも弱々しい力で頭を押し返される。
無視して続けたら柔らかいとこだからなのか、いつもよりくっきり赤い痣が残って。

何個かつけて顔をあげた。


「ねぇ、」

「っは、はい?」

「…なんで喋ったの、ここにホクロあること」


言いながら、確かめるようにもう一度そこを指の腹で撫でる。
すごく困惑した顔のまま手首を掴まれた。


「く、っくすぐったいですよ…そういう話の流れだったんです。」

「ホクロなら背中にもあんのに」

「それは私も知らない!…裏道さん、っ」


なんで知っるの?って、多分聞こうとして。

言う前に顔を背け、押し黙ったなまえに詰め寄る。

わかってるだろうけど敢えて顔を近づけながら、わざとらしく目を伏せて言ってやった。


「心あたりあんでしょ、後ろはなまえがせがんだ時しかやらないし」

「言わなくていいですってば!」

「親切心で答えてやったんだよ。いらなかった?」

「なんか…っ怒ってるんですか、」

「どうだろうね」


どちらかといえば拗ねてる。俺しか知らない特権だったのに、なんて事まで教えてやんないけど。

顔を近づけて口を塞ごうとしたらすかさず手のひらで口を押さえられた。

手首を掴んで退かそうとしたけど今日はやけに頑固で、


「せっかく裏道さんの為に作ったご飯、…食べないんですか?」


誰に似たのかじとりとした目つきにちょっと意地の悪い言い方。

少しの沈黙のあと、力が篭った手にぐぐぐと顔を押し返される。
寝込みを襲った上揶揄ったからか、今日は絶対に流されてたまるかと言わんばかりの気迫をなまえから感じて。

珍しく折れたのは俺の方。

仕方なく体を離したら口元から手が離れ、同時に突然掴まれたシャツの襟。なんとも荒く唇を噛まれた。


「今日はこれで我慢してください、ご飯温めておくので先にお風呂…入ってきてくださいね!」


何事もなかったように笑ったなまえ。

いつの間にか俺の扱い…かなりうまくなったな、こいつ。


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露草