はあっと自然と漏れたため息は少しだけ、重かった。

「どしたのなまえちゃん、彼氏と喧嘩?」

「あ、お疲れ様です。…そういうのじゃないんですけど」

休憩室で珍しく持参したお弁当を食べてたら午前の収録を終えた詩乃さんが向かいに座った。
「自分で作ってるなんて偉いねえ」と感心したように言われて。今だけですよ、とまたため息混じりに呟いた。

「マンションの更新がそろそろなんで、仕方なくの節約です」

「それでため息かー高いよねえ。一人暮らしだと特に」

「そーなんですよ…」

裏道さん家に泊まりに行く事が増え、最近はほとんど物置状態の我が家。ほんとは東京じゃなくてもっと家賃の安いとこに引越してもいいけど、裏道さん家に入り浸る前提で事を進めるのもどうなのかと思うし、そこまで甘えてしまったらダメな気がするから。

結局継続はするけど、やっぱり家賃二ヶ月分はなかなかに痛い出費ではある。


ガチャっと再び開いた休憩室の扉。
今後はコンビニ袋を持った裏道さんと兎原くんが入ってきた。


「お疲れ様で〜す、なまえさん今日は弁当なんスね、卵焼き一個貰っていいスか?」

「おい」

「いいよ、…裏道さんも食べます?よかったら」


裏道さんにさりげなく肘アタックをされて脇腹を抑える兎原くんを横目に問いかけると、少しの間の後「…じゃあ、」と言われたので。そんなに量はないけどお弁当を真ん中に置くと、変わりに渡されたおにぎりは私の好きなツナマヨだった。結局、4人でテーブルを囲んでご飯を食べる。


「熊谷くんは?今日一緒じゃないの?」

「弟が近くまで来てるらしくて一緒に外に食いに行ったっスよ」

「相変わらず仲良いのね」

「ねーさん達はなに話してたんスか?また彼氏のエロ本の話?」

「違うわ」

詩乃さん達の会話に出てきた彼氏のエロ本、というワードにこちらを見てきた裏道さん。
前にここでそんな会話したなあと思いながら、誤魔化すように笑ってウインナーを口に入れた。

「家の更新料って高いよねって話」

「今日は随分リアルな話題っすね。そろそろなんスか?」

「私じゃなくてなまえちゃんがね」

「……そうなの?」

「は、はい。まあ…」

何処とない気まずさを感じながら、裏道さんの問いかけに頷く。
「なんで確認したんスか?」とニヤニヤ顔の兎原くんの腹部にまた、裏道さんの肘が入った。

「というか彼氏と家近いなら、これを機に一緒に住んじゃえば良くない?」

「え、」

「その方が家賃は浮くよ?………まあ結婚は遠のくかもしれないけど。」

「ねーさんが言うと色々説得力すごいっすね」

「なにか言った?」

「…スッ。裏道さんは同棲、どう思います?」

「どうって、なにが」

「賛成か反対か」

卵焼きに箸を伸ばした裏道さんの動きが止まる。
まさかこんな展開になろうとは…じっと見てたら目が、合ってしまった。

大人になると、先を考えてからでしか行動できない事が増えるし、好きだからの気持ちだけで突っ走るにもある程度限界があると思う。

だから…裏道さんが今の今でそんなこと聞かれたって安易に頷くワケないって、


「…いいんじゃない?一緒に住んじゃえば。」


思って、たんだけど?


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露草