寒い、というなまえを先風呂に入れる前。

サイズでかいしこれだけでいいだろと押し付けた俺のTシャツ。
絶対下も欲しいとごねられると思ったら案外すんなり受け取って脱衣所の扉をバタンと閉められた。

次に出てきた時にはいい感じに生足が剥き出しになってて久々だし素直にエロいと思った。
本人は特に気にするわけでもなくそのまますぐに例の配信をベッドに転がって見始めたけど。

あれ、早く観たかったからごねなかったな多分。

俺が風呂から出てもビール飲んでテレビ観たり煙草吸った後でも、なまえはベッドから動かない。時計が軽く2周ちょっと。…おい、想像してた展開と違うぞ。


「正気か?」

「ん、なに」

「それいつまで観てんの。流石に長い、日付も変わる」

「イベント配信だからこんなもんだよ」

「暇なんだけど」

「だからなに」

「だから、」


ベッドの淵に腰掛けひょいっとなまえの手から取り上げたスマホ。

てっきりすぐ怒り出すかと思ったらなまえはじっとこちらを見上げたまま動かない。…それはそれで怖い。

なんだ、なに考えてんだその顔は。


「私にどうして欲しいのか言ってくれなきゃわかんないよ」

「じゃあ言ったらきいてくれんの?何でも」

「いいよ、言えたらね」


なぜか挑発的な態度。
構ってほしい、最近ずっと頭をエンドレスしてこいつには言えなかった一言。

寝転んだままのなまえと睨み合って暫し。聞こえるようにわざとらしく、ため息をつかれた。


「…私の負けだね」

「負け?なんの話」

「ほんとはこの配信者、半月前にもう飽きてるんだ、私」

「嘘だろ、さっきまでずっと釘付けだったくせして」

「裏道さんが寂しい構って!って言ってくるのずっと待ってたんだけど、無理だった」


予想もしなかった一言に一瞬固まる。
「まあ、やっぱり気づかないよね」と真顔で言われた。


「裏道さん言い返せされたらすぐ引き下がっちゃうし。今回に限った事じゃないけど肝心なこと、全部飲み込みすぎ。今日だってあと一言泊まりに来てほしいって言えばいいだけなのに」

「…その為に今までハマったフリしてたって?そんな事するタイプだっけ、お前」

「させたのは裏道さんでしょ、言わなくても伝わるスタイルにも限界あるから。たまには口にして、求めてくれないと流石にこっちが寂しい」

「そうなのか、」

「そうだよ」


なまえがそんな事言い出すとは意外、だったしなんならドライに見えても色々考えて…いや、考えさせてたんだな。
確かに大人びたなまえに甘えて、今まで疎かにしてきた言葉は浮かぶかぎりでも沢山あるし、素直に申し訳ないとは思う。同時に、

デレると可愛い事は知ってた、今みたいに拗ねて眉を顰めながら見上げてくる姿に愛おしい、なんて事を思うのは…初めてだ。

ずるいだろ、その顔は。


「なまえが好きで観てる動画、俺も観たら喜ぶと思って検索しようとしたけど名前が永遠に覚えられなくて無理だった」

「…うん」

「…一カ月近く放置されたのはかなり応えたし、今日もチョコ貰えるもんだと朝からかなり期待はしてた」

「裏道さん甘いの食べないから、いらないかと思ってたよ」

「欲しいよ、チョコじゃなくても特別ななんか。そういうイベントなんじゃないの、バレンタインって」


知らんけど。

一度開いた口はよく動く。

俺の話を聞きながら、寝転んでいたなまえが身体を起こして膝の上に跨るように乗ってきた。

首に腕が回って、ちゅう、と唇を吸われる。


「なら、チョコの変わりに食べてもいいよ。私のこと」

「……どこで覚えた誘い文句だそれ」

「…効いた?」

「まあ…かなり」


空いている手で、白い太腿を撫でれば「んっ、」と漏れた声。
さっきまでは強気だったくせして、視線が絡むようにぶつかると目を伏せながら逸らされてそれがまた、まあかわいい。


「そのわりには…今日も余裕そう、裏道さん」

「お前より伊達に長く生きてないし」

「…そう、」

「でもやっぱ、これは今日だけ特別に教えとく」


明日…は、別に休みでもなんでもないし、テレビも電気もつけっぱだけど、そんなん最早どうでもいい。

このまま気の済むまでぐちゃぐちゃにして、俺の事しか考えられなくなればいい。引かれても嫌がられても今日は絶対、やめてやらない。

お前が思ってるよりずっと、最初から余裕なんて一ミリもねえからな、こっちは。覚悟しろ。


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露草