私の彼氏はテレビで見せる顔とは違い、裏ではなかなかに厄介な性格をしている。

自分の考えてる事をなかなか口にはしないくせに、こっちが素っ気ない態度をとったり日々の愛情表現を疎かにするとわかりやすく拗ねる。

この前のバレンタインの経験を得て、自分から仕掛けたとは言え駆け引きをするととてつもない体力を消耗する事がわかったので、これからはこっちも意地を張らずに出来るだけ裏道さんの気持ちを汲んで甘やかしてあげようかな。


なんて事を考えながら過ごしていたある日の事。

裏で顔を合わせた時にまた、言われた。


「今日は家、来るでしょ?」


だから何故来て欲しい、と言わない。

という言葉は飲み込んで、


「行くよ。出来るだけ早く仕事終わらせるね?」


最大限の笑顔で返してみたらふいっと顔を逸らされた。…これは、


私の彼氏にはこういう対応がどうやら一番、効くらしい。







「夜ご飯どうする?」

「作るの面倒だから今日はテキトーがいい」

「ん。ならなんか食って帰るか」


女子力の欠片もない発言だけど嫌な顔一つされないのが気楽で大変助かる。裏道さん家の近くにあったお店で簡単に済ませて、二人で帰宅。

「先風呂いいよ」とバスタオルとまた裏道さんのシャツだけ渡されて。なんでいつも下がないんだ?とは思ったけど、多分そういう性癖なんだろうなと諦めて文句は言わずに脱衣所の扉をバタンと閉めた。

職場では常に元気ないし、淡白そうに見えても性欲は20代の私よりしっかり強いからたまに…困るんだよな。


シャワーを浴びて、のんびり湯船に浸かっていたらお風呂の扉に影が映った。「裏道さん?」と声をかけても返事がなくて、不思議に思ってたらすぐ扉が開いた。


「え、何してるの?」

「風呂、入ろうかなって」

「私まだ入ってるよっ」

「見ればわかる」

「一緒に入りたいなら先言って!」

「なんで、照れるから?」


思わず顔を逸らした私に家用の意地の悪い笑みを浮かべた裏道さんは平然とシャワーを浴び始めた。出たい…けど、出るに出られない。

裸なんて今まで腐るほど見られてるのに、場所が変わるだけで途端に恥ずかしい、なんて今更忘れていた感情が蘇ってくる。


「俺も湯船入っていい?」

「早くない?洗ったの?」

「洗ったつーの」


詰めて、と言われて少しスペースを開けたら背後を取るように入ってきてすっぽり腕の中に収められた。
「…いー匂い、すんな」なんて言いながらうなじにやたらと顔を近づけてくる。


「っ、ちょ…い、きかかる」

「舐めていい?」

「だ…っ、もう舐めてるじゃん!」

「…我慢できねぇかも」

「ゃあ、っう、らみちさん!」

「…良い声出たな、今」


人の話あんまり聞いてないな!?

お尻に感じた違和感。上半身だけ捻って後ろを見たら、やたらと熱帯びた目で私を見てる裏道さんと目が合ってそのまま唇を噛まれた。
掻き乱すように深く絡む舌、どさくさに紛れ身体を弄る手にお湯が波立つ。


「…はぁ、わかったから…せめて、っベッド」

「身体拭いたら運んでやるよ」

「いい、自分で行く」

「やだ。離したくない」

「……今日、いつもとキャラ違くない?偽物なの?なんなの?」

「それはお前もだろ」

「なんで」

「昼間の返しが…めちゃくちゃ効いた」

「え」


多分、早く仕事終わらせるね?って言ったアレ。…そんな効果あったの?


「…かわいかった」

「そ、そうなんだ」


結局その後、バレンタイン同様にすごい体力を消耗した。





「身体、辛くない?」

「辛いよ。明日も仕事なのに…」

「……ごめん」


手加減がわからないのか、はたまた不器用なのか。
腕枕をしながら、流石に申し訳ないという顔をしている裏道さんを見上げる。
耳がついてたらタレ下がってそうな顔だ。
…悔しいけど少し可愛くて、髪をサラサラ撫でたらその手を掴まれた。


「くすぐったい」

「日付変わっちゃうし、そろそろ寝よう?」

「…まだ、もう少しだけ」

「…裏道さん眠くないの?」

「眠いよ」

「なら寝ようよ」

「寝ないよ」


なんなんだこの人。
何処となくソワソワ泳ぐ視線、何かあるなら頑張って早く言ってほしい。じゃないとほんとに寝ちゃうから。

枕元にある時計を見たら日付が変わる10分前で。

時刻の横に写ってる3月14日を見て、ピンと来た。


「裏道さん…甘いもの、食べたい」

「甘い物?」


バレンタイン、大したことしてないからお返しなんて考えなくていいのに。…それでも貰えたらかなり嬉しいけど。

予想はマカロン、前に好きだって伝えた事あったから。


「食べたいなら買いに行く?コンビニ」

「え、家にないの?」

「ないだろ、俺ん家だぞ」


…違った。めちゃくちゃ期待したみたいで恥ずかしい。

結局「行くなら早く行こ」と言われていいとも言えず服を着て一緒にコンビニに行った。

適当なスイーツを籠に入れたらしれっとお会計済ませてくれて。

月明かりに照らされる裏道さんは何だかんだ言っても悔しいけど…結局すごく、カッコよかった。


「なまえ」

「なに?」

「いつもごめん」

「え、どうしたの急に…こわいよ」

「…ずっと、一緒にいたい」


こっちには一切目を向けずに横から徐に握られた手。
その一言から裏道さんなりの精一杯が伝わってきて素直に、嬉しかった。


「……いるよ。またすぐ泊まりに来るね」

「ずっとがいい」

「え、」


それは…


「…同棲したいってこと?」

「違う」

「どっち?…今日ずっと扱い方が難しすぎる」

「結婚したい」

「え」


今、なんて?

思わず立ち止まったら裏道さんも止まって、振り向いてはくれたけど目線は一切合わなくて。

流石にもう一回は言ってくれなかったけど、代わりにパーカーのポケットから何やらゴソゴソ取り出して…


「そんな大事なものそこに入れてたの?」

「お前が急に甘い物食べたいとか言い出すからだよ」

「だってホワイトデーだった、から。っマカロンかなって」

「マカロンと迷ってこっちにした」

「またすごい二択だね」

「…マカロンのが、よかった?」


差し出された箱を受け取って、照れてるのか不安なのかまた難しい顔をしたまま聞いてきた裏道さんとやっと目が合った。

こんなさり気なくプロポーズされるなんて夢にも思わなかったけど、


「ううん。…マカロンより嬉しいよ、裏道さん」

「…つまり?」

「つまり、」


有難く頂戴したい、表田という名字。


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露草