「ガキに興味ねぇつったろ」


大学時代、大好きな先輩がいた。

要領良くてなんでも卒なくこなす人、でもちょっと口が悪い時もある。
同じ弓道部で入学した頃から憧れてて、いつも軽くあしらわれてたけど先輩が卒業する前に意を決して本気の告白をしたら、冒頭のセリフと共に敢えなく玉砕。

年三つしか変わらないのにガキって…。

まあ先輩の方が精神年齢はうんと大人だったしなんならかなりモテてたし、相手にされなくて当然といえば当然なんだけど。

それから数年が経った今も引き摺ってる。先輩が今どこで何をしてるかも知らないのに。


「なまえちゃん、これあっちに運んどいてくれない?」

「はーい!」


大学を卒業してから暫くして、最近テレビ局の裏方の仕事に就いた。子供向け教育番組らしくやたら可愛いらしい備品の入った段ボールを指定された部屋に運んで。

一応ノックして扉を開けたらうらみちお兄さんと兎と熊の着ぐるみがいた。


「っ…あ、すいません。ちょっとこれだけ置かせてください…」

「なまえちゃんじゃね?」

「えっ、」

「俺だよ俺!覚えてない?」


兎の頭をとって、揺れる金髪に人懐っこい笑顔を浮かべたその人は確かに私のよく知っている人物だった。


「兎原先輩!?」

「覚えててくれた?やー久々じゃん、まさかこんなとこで会うなんてなぁ」

「…なに、知り合いなの?」

「あー裏道さんは知らないっスよね、接点なかったし。大学の後輩なんスよ!熊谷と同じ弓道部だったなまえちゃん」

「へーどうも」

「よ、よろしくお願いします」


うらみちお兄さん、大学でかなり有名だったけど初めて喋った。
寮で生活してる頃は兎原先輩達と相部屋だったとは聞いてたけど、今も二人は接点あったんだ。…熊谷先輩は、何してるんだろう。
ほんとは聞きたいけど、この状況でそんな勇気は全くない。


「懐かしいな、あの頃なまえちゃん熊谷のあとずーっと追いかけててさあ」

「ああ、熊谷のこと慕ってた後輩ってこの子なんだ」

「っ、そ、そんなに噂になってましたか…?」


恥ずかしい、まさかうらみちお兄さんにも知られてたなんて。
できればさっさと段ボール置いて立ち去りたい。

楽しそうに絡んでくる兎原先輩と裏腹、まるで気配を殺すように隅で全く喋らないままこちらを見てるクマオくん。

まだ中の人を見たことない、ウサオくんが兎原先輩ってことも今知ったし。
身内トークで疎外感を与えてしまっただろうか、目が合った気がして軽く頭を下げておいた。


「なまえちゃん今彼氏いんの?」

「いません、…というか出来たコトも、ありません」

「マジかぁ!もしかして忘れられない?熊谷んこと」

「…それはっ、」

「兎原、それ以上はやめとけよ」


浅くため息をついたうらみちお兄さんと、何故か突然兎原先輩に詰め寄ったクマオくんが兎原先輩に関節技をかけ始めた。


「っ待って、マジごめんてえ…!熊谷ぃっ!」

「熊谷?」


悲痛な声を上げながら兎原先輩が挙げた名前にまさかと息を呑む。
同時にクマオくんの身体が傾いて、ゴトっと鈍い音を立て床に落ちた熊の頭にその場が一気に静まり返った。



「………熊谷、せんぱいっ」



蘇るのは、あの日の苦い思い出。


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露草