また会えたのは嬉しい、という気持ちももちろんあるけど。
これからはずっと同じ職場で顔を合わせるわけで、気まずさもかなり大きい。
一度キッパリフラれてる手前これ以上アプローチなんて出来ないし、なんなら再会したあの日も熊谷先輩は一言も口は開かないまま黙って部屋を出て行ってしまった。
ごめんっ、と兎原先輩はすごい謝ってくれたけど、
「やっぱり、嫌ですよね。しつこかった女にまた会っちゃったら」
「嫌…というか、あいつにも色々考えはあるんだと思うよ」
うらみちお兄さんの優しいフォローが逆に応えてしまって、その時は笑顔を作るのに精一杯だった。
*
「うわー…すごい雨」
台風が近づいてるとは予報出てたけど、それでも仕事はあるわけで。
終わってから局を出たら雨風がピークだった。
持ってきた傘でなんとか最寄りまで行ったのはいいもののまさかの電車が泊まってて。
近くのホテルを探したら同じ考えの人達でどこも満室。
結局来た道を引き返しテレビ局に戻った。
道中傘は壊れるし、ずぶ濡れだし帰れないし最近…踏んだり蹴ったりだ。
「…あっ、」
思わず声が出てしまった。
従業員出入り口で壊れた傘を抱えて上着を絞ってたら鉢合わせしてしまった、熊谷先輩に。
軽く頭を下げて道を開ける、…電車止まってるって教えてあげた方がいいのかな。でも、もしかしたら家近いかもしれないし、喋りたくなかったら申し訳ないし…。
大学の頃は、どんなにあしらわれても何度も声かけて追いかけられたのに。
今は言葉一つ出ないなんて、いつからこんなに臆病になったんだろう。私、
「…傘、壊れたのか」
「…えっあ…風、強くて」
「ならこれ使え」
持っていた自分の傘ともれなくカッパまで押し付けてきた熊谷先輩に驚きつつ首を振る。
「いいから受け取れ、ないと帰れないだろ」
「っそれは熊谷先輩も一緒でしょう?」
「走って帰ればすぐだからいい」
「っ私は、電車止まっててどちらにせよ帰れないんですっ!だから大丈夫です…先輩が使ってください」
「ならどこ泊まんだ、今日。野宿か?」
「使ってない作業部屋があるので、とりあえずそこをお借りします」
「仮にも女なのに、危ないだろそれは」
「っお構いなく!」
「家にこい」
「…は?」
カッパを乱暴に押し付けて、自分は傘を開いて歩き出した熊谷先輩。意味がわからず固まってたら先輩は足を止めて、苛立たしそうにこちらに振り向いた。
「何してんだ、早く来いよ。濡れんだろ」
「だ、だって!家って…熊谷先輩の、うち?」
「何度も言わせんな、このまま見てみぬフリして風邪でも引かれたらそっちのが後味悪い」
「…っ、」
ずるい。忘れようとしてんのに、考えないようにしてんのに。
そーやっていつも、中途半端に優しくしてまた突き放すくせに。
カッパを被って熊谷先輩の後を黙って追いかける。
「一丁前に警戒してんな。ガキに興味ねえって、前にも言っただろ」
また傷つくかもしれないのに、それでも振り切れない私が多分一番バカなのかもしれない。
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露草