男の人を家に上げるの、人生で初めて。
自分の家なのに緊張して、熊谷先輩の方が全くいつも通りでどちらが家主かわからない。
もっと部屋片付けとけばよかったなんて今更後悔しても後の祭り。干してあった下着だけバレないように引き出しに押し込んだ。
遅くなっちゃったしスーパーでお弁当を買って帰り、一緒に食べてから、今日は熊谷先輩から先にお風呂に入ってもらった。
途中コンビニで下着は買ってたみたいだけどよく考えたら男物のシャツなんてうちにない。
熊谷先輩でも着れそうなできるだけサイズの大きいTシャツを探してたらリビングの扉がガチャっと音を立て開いた。
「っーまた裸!なんでいつもそのまま出てきちゃうんですか!」
「だから下は履いてんだろ」
「ここは熊谷先輩の家じゃないですっ早くこれ着てください」
「お前のシャツじゃないのか、これ」
「男物なんてうちにないです。Lサイズだし着れますよね?あとスウェットも貸すのでちゃんと両方着といてくださいよ!」
首にタオルをかけたまま、お風呂上がりは前回同様いつもの倍色気を醸し出す先輩に押し付けるように寝巻きを渡して、脱衣所に逃げ込んだ。
私は全部が初めてなのに、熊谷先輩は良くも悪くもマイペースで困る、ほんと。
お風呂に入って髪を乾かしてから再びリビングに戻る。
ベッドに寄りかかりながらスマホをいじっていた熊谷先輩はちゃんと服を着てくれてた。
私に気づくとスマホを置いてこちらを見た先輩と目が合って暫し、なんともいえない沈黙が流れる。
「あの…うち、熊谷先輩の家と違って、寝るとこベッドしかなくてっ」
一緒に寝たいと恥ずかしいが混同して永遠に決着がつかない。
先輩は何も言わないままベッドの上に寝転がると、枕を背もたれにして自分の横を指差した。
「えー…っと、それは、」
「ここ、来ていいっつってんだよ」
早くしろ、と言わんばかりの横暴な態度。
赤くなる顔も、もれなく動揺も隠せない。
「お言葉に甘えておじゃ、お邪魔しますっ」
「自分のベッドだろ。なんでそんな畏まってんだ」
「逆になんで先輩はそんな手慣れてるんですかっ?」
「お前と違って俺は初めてじゃないからな」
「っデリカシーはないんですね」
「うるせえよ。本気で付き合うのは、なまえが初めてだ」
「っ、」
「これで満足だろ」
っ勝てない、何しても。
余裕そうな先輩の表情、また子供の相手をするみたいな態度にムッとする。顔に出ちゃったのか、伸びてきた手に頬を軽く摘まれた。
「そういうとこがガキなんだよ。拗ねたツラしてんな」
「がきじゃないですっ。先輩が気づかないだけでもう充分、大人ですから」
「ほうか。なら試してやるから、逃げんなよ」
近づいてきた先輩の顔に、キスかと思ってぎゅっと固く目を瞑ったら唇…ではなく、耳元に柔らかい感触がしてわかりやすく身体が跳ねた。
「っ、くま!熊谷せんぱい…っなにして、」
「大人なんだろ?ならそれ相応の対応してみろよ」
対応って…わからん!絶対わざとやってる、この人。
ザラザラした舌が耳たぶを何度も攻めてきて、たまに甘噛みしてくるし耳の奥にまで届く吐息に、先輩の肩を掴んで押し返すように力を入れる。…怖いくらいびくともしなかった。
ひたすら耐える私にわざと音が聞こえるよう、ちゅっと耳たぶを吸われて。
唇が離れていった頃にはもう、溶けそうなくらい身体が熱かった。
「タコみてえな顔」
「だって、む、っむむ無理です…っいきなりうまい対応なんて、できない…!」
「それでいい、そっちのがお前らしい」
「っ褒めてないですよねっそれ!」
「褒めてんだろ。そういう反応が好きだって俺が思ってんだから」
充分大人、なんて意地を張っただけの強がりを今度は倍…いや、何百倍にして打ち返された。
言葉に詰まった私に少し緩んだ先輩の口元。
悔しいけど、敵うわけない。
力なくベッドに寝転ぶと、先輩の手が乱暴に私の頭をくしゃくしゃ撫でる。
「わかったら、ガキは大人しく寝ろ」
「この状況で寝れるほど、図太くないですってば」
「寝ないとこのまま襲うぞ」
冗談か本気かわからないテンションで、顔色一つ変えないまま私を見下ろす熊谷先輩。
敵わなくてもやっぱり、やられっぱなしじゃフェアじゃないから。
先輩の腕を掴んで自分から強引に唇を奪ってやった。
「是非…続きのこと、教えてくださいっ」
初めて少し驚いた熊谷先輩を、見た。
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露草