もらった合鍵に裏道さんがくれた鳥?みたいなマスコットのキーホルダーをつけて。
かざすようにしながらマンションのエントランスを進む。
いつでも来てって言われたからお言葉に甘えて最近では結構な頻度で出入りして、自分の家にいる時間が減った。
裏道さんは帰り際、ディレクターに捕まって木角くんとこに行くように言われてたから今日は多分帰りが遅い。
先にお風呂を頂いて、いつも借りてる裏道さんのスウェットに着替えてあり物でご飯だけ用意した。
家にあった人喰いサーモンの映画を観ながらソファでウトウトしてたら玄関扉がガチャガチャ音を立てたから慌てて出迎えに行ってー…
「おかえりなさい!うらみちさー……えっ」
「え?」
「こんばんは、なまえさん」
「………こ、こんばんは…?」
扉を開けて数秒、時が止まった。
兎原くんと熊谷くんが、酔ってぐったりしてる裏道さんに肩を貸したままそこに立っていて。
しれっと挨拶してきた熊谷くんに頭を軽く下げたがそれより問題なのが、
「え!?なななんで、裏道さん家になまえさんが…!?まさか…!」
「今更かよ」
「実は妹?」
「違うだろ、認めろ兎原。現実を」
「いやだあああ」
とりあえず近所迷惑になるので急いで中に入ってもらって。
伸びてる裏道さんをソファに寝かせてなんとも気まずい空気になってしまった。
裏道さんに今日行きますって連絡はしてたけど、飲んでて気づかなかったんだろうな…多分。
未だに激しく落ち込む兎原くんになんて声をかけたらいいのかわからない。
「熊谷は知ってんだろ、なんで教えてくんねーの」
「俺も直接聞いたわけじゃないし」
「ごめんね…誰にも言ってなかったから」
「裏道さんにカノジョいただけでもショックなのに…つーか待って。なまえさんが彼女なら今までの俺かなりやばくね?」
「だから何度か庇ってやっただろうが」
「あんなんじゃわっかんねーよ!やばい、っぺしゃんこにされるー!」
「いいから、とりあえず今日はもう帰るぞ」
「待って、っなまえさん!なんか裏道さんの弱点とか知らないッスカ!?教えてもらえたらまだ戦える気がする」
「裏道さんの弱点はそのなまえさんだ」
「いや、誰が上手い事言えっつった?つかなんで熊谷が答えてんの」
「帰るぞ」
…仲、いいなあほんと。
まるで嵐のように去って行った二人を見送ってソファで寝ている裏道さんに近寄る。
裏道さんが酔うとこ見るの初めてだ…一体何を飲んできたんだろ。
「んー…ぅ、」
「…裏道さん、大丈夫ですか?」
「…なまえ?」
「はい、なんかいります?水か…あと、っ」
「なまえ」
酔ってるせいなのか、ソファに寝転んだまま私の腰に腕を回して猫みたく擦り寄ってきた裏道さん。
いつもよりどことなく甘い声色に胸が疼く。
「なまえがいるならもっと早く帰ってくればよかった…」
「最近は結構長く一緒にいるじゃないですか、迷惑じゃないか心配なくらいです」
「足りない、なんならずっといてほしい。金出すから」
「…なに言ってるんですか、もうっ」
裏道さんの為ならいくらでもここにいるのに。
裏道さんの言葉一つで救われたように、裏道さんが辛い時や誰かにそばにいてほしい時、真っ先に頼られる相手でありたいとずっと思ってる。
今でもなんで私を恋人に選んでくれたのか、不思議なくらいなんだけど。
出会った頃よりかはずっと、裏道さんの心の近いとこに立ててるような気がしてる。
腹部に顔を埋めたままの裏道さんの頭を撫でると、同時にサラサラ揺れる柔らかい髪。
…男の人にかっこいいよりかわいいを感じたら最後。
何処かで耳にした言葉の意味が今なら確かに、わかる気がする。
「…かわいい、裏道さん」
「…なんだよかわいいって。初めて言われたんだけど、そんなこと。」
「だって、裏道さんがわかりやすく甘えてくることなんて滅多にないから。…今日は素直でかわいいなって、思いまして」
「素直な方が好きなの?」
「そういうワケじゃないですけど、」
顔を上げた裏道さんの瞳が真っ直ぐ私を見て、射抜くような眼差しに心臓が跳ねた。
腰に回っていた腕に急に力が入り、そのまま抱き寄せられて裏道さんの上に倒れ込む。いつもみたくまた、奪うようなキスをされた。
お酒の匂いが入り混じり、なんだか私まで熱くてクラクラする。
いつの間に服の中に侵入してきた手に腰を直で撫でられて、酔っ払ってるせいなのか裏道さんの手つきが今日はやけにいやらしく感じてしまう。
「っ裏道さん、その触り方…っなんかヤです」
「だって素直がいいって言うから、俺は今こうやって触りたい」
「っ都合の良い解釈しないでくださいよ!」
「いいじゃん、好きにさせてよ。たまには」
いつもしてるくせにっ。
都合の悪い事はまた押し当てられた唇に言わせてもらえなくて、
「なまえが思ってるよりもずっと好きだよ、なまえのこと」
「な、ずっずるいですっそれは、」
「この解釈で合ってんじゃないの?」
「っほんとはもう酔い覚めてるでしょっ、さっきから揶揄ってない?」
「あ、今の」
「え?」
「今の不意のタメ口も、かなり好き」
「っ」
この沼、あまりにも底なしすぎる。
明日の朝。酒の勢いで口走った事全部言って、今後は絶対こっちから揶揄ってやる。
そう心に決めてそのまま裏道さんの身体に腕を回した。
そんな夜だった。
「裏道さん、昨日の台詞もう一回言ってくださいよっ!」
「昨日…俺、なんか言った?」
「…え、」
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露草