二 ミズノメズミ

「カアァ…ア……ヤッパリ東ダッタカナ」
「えっ、ここまで来て?もう歳だし、引退した方が……」
「ナニ言ッテンノヨウ!ジイサンニハ負ケナイ!」
「じいさん?旦那様がいるの?」
「イルニキマッテルデショ!私ホドモテル女ハイナイ!」
「そ、そうなんだ……」
「アンタモ男ノ一人クライ居ルデショ?」
「………ずっと昔に……1人」
「マ!潤イノナイ女ダワ!」
「うっ……うるさいな」

●は、肩に止まり大きな声で騒ぐメスカラスと会話をしながら、東へ進路を変えた。


鱗滝さんがくれた厄除の面には、赤い『南天』が枝垂れるように描かれていた。南天は縁起が良い植物として知られている。厄除の効果が二倍三倍にもなりそうな気がする。

「嬉しいな」

●は嬉しそうに、面を首元に付けた。首の後ろに面が有ると背後を守られているみたい。

「師には後ろががら空きだといつも言われているし……」
「急ギナサイ!●!ハヤク!」
「ええっ自分が間違えたくせに……」
「ウルーサーイッ!」

●が東の森の中に入っていくと同時に、北へ向かう道を義勇が通り過ぎた。



_____





●は、初の鬼狩りを終え、カラスと共にお世話になる師匠の屋敷へ帰宅した。いつ見ても立派なお屋敷だ。


「ただいま戻りました!」

●が、屋敷の門を潜り、大きめの声で帰宅を知らせる。

「あっ、●さん!お帰りなさい」

ニッコリ笑って出迎えてくれたのは、見た目が師匠とそっくりの煉獄千寿郎様。庭を箒で掃いている途中だったようだ。

「お疲れ様です、千寿郎さま。師匠はどちらにみえますか?」
「えっと……裏庭の方で鍛錬を」
「分かりました。ありがとうございます」
「あっ、あの!●さん」

千寿郎は箒をギュッと握りしめ、師匠の方へ向かおうとする●を呼び止めた。

「はい」
「………お怪我は無いですか?」

自分を心配そうに見つめる千寿郎に嬉しくなって、●は頬を染めて微笑んだ。

「大丈夫です。ありがとうございます、千寿郎さま」
「良かったです」

千寿郎も頬を染めてホッとしたようにニッコリ笑った。


「●!」

千寿郎と話しているところに大きな声で現れたのは●の師匠である、炎柱の煉獄杏寿郎。

「無事に帰ったか!感心感心!流石だな」
「わっ、わわわ」

杏寿郎は大きな手で●の頭をくしゃくしゃになるまで撫でる。●を褒めるときはいつもこうだ。

「ハハハハハ!……む、これは何だ」

杏寿郎は●の首後ろに付いている厄除の面を手に取った。

「これは、元柱の鱗滝さんから頂きました」

●は乱れた髪の毛を簡単に整えながら答えた。

「ほう、鬼殺の初陣だというのに男に会いに行っていたのか?」

杏寿郎は大きな瞳で●を見つめ、問い正す。

「えっいえ!丁度あの以前お話しした方のっ命日でして、近くだったので顔を……き!鬼殺隊になった報告も兼ねてといいますかっ」

杏寿郎に睨まれていると思った●は、慌てた様子で、身振り手振りを加えて杏寿郎に説明する。

「本当か?」
「も、もちろんです」
「…………」
「…………」
「ならば良い!」

杏寿郎は口角をニッと上げ、背後に隠し持っていた風呂敷に包まれた何かを●に手渡した。

「初の鬼殺隊責務を果たしたら、渡そうと思っていた」
「これは………」
「俺と同じ、炎の羽織だ」
「えぇっ嬉しいです、師匠!ありがとうございます!」

●は嬉しそうに中身の羽織を取り出し、大きく広げた。赤い炎が描かれた羽織は●の身体の丈に合うように作られており、袖を通しても柄を握る手を邪魔しない。

「これを着ていれば●が俺の継子だと誰でもひと目でわかるだろう!」
「…えっ……それは少し重圧を感じます……」
「俺の顔に泥を塗るなよ、●!ハハハ」

杏寿郎は冗談のように言ってのけるが、●は内心ビクついていた。これからの●の行動には良いも悪いも『炎柱の継子』が付いてくる。ひとたび失敗をすれば、杏寿郎の名前に傷が付く。

羽織の裾を握りしめて口を真一文字に結ぶ●の頭を、杏寿郎はポンポンと撫でた。

「そう気負うな!これからは●の尻拭いも俺の仕事だ!」
「うぅっ師匠……!一生ついて行きます!」
「当然だ!ハハハ!」

豪快に笑う杏寿郎を見て、●もつられて笑顔になる。

「そうだ、もう一つ」
「はい」
「今後、俺に無断で男と接近するのを禁ずる!師匠命令だ」
「私がですか?」
「そうだ!」
「ど、どうして……」
「無自覚だろうが、●は無防備すぎるのだ。風呂上りに年頃の娘が肌着のみで出てくるなど!危険だ!それに、俺も男だぞ!」
「…………」

その話を聞いていた●の背後に居る千寿郎は頬を染めていた。

両親も小さい頃に亡くなって、ずっと小屋で一人暮らしだった●は、お風呂から出てすぐに着物を着て帯を締めるという習慣がなかった。家の中なら楽な格好がいい。

『無防備』
それ、誰かにも言われたなぁ……。
……そう、そうだ、錆兎だ。

●は少し悲しそうに微笑んだ。

「●も年頃の娘だ!無防備を自覚し、正す事!それまで他の男とは接近禁止だ」
「はっ、ハイ!」

そんな命令を出されずとも、この屋敷の人達以外に会う事は殆ど無いのに………師匠は心配性だなぁ。それに面倒見もいい。怒ると怖いけど、優しい。曲がった事が許せない所……そういう所が少し、ほんの少しだけ………錆兎に似てると思ってしまう。


「明日は柱合会議で家を空ける。●は千寿郎と共に鍛錬に励むように!」
「分かりました」
「はい!兄上」
「全集中常中、それを会得するのだ」
「は、はい……!」

その日の夜、●は炎の羽織を大事そうに畳んで、眠りについた。




***
2021.11.04編集しました。

煉獄さんの羽織は袖がないですが、
夢主のは袖があります。

2020.02.08



noveltoptop