一 大志の先に蓄
『義勇………』目の前には、久方ぶりの鱗滝さんの家が見える。
その家の前に佇み俺を呼ぶ狐面。宍色の髪が懐かしい。錆兎に駆け寄ろうとしても、身体が重く足はこれ以上進めなかった。
『……頼む…』
狐の面を付けた錆兎が、義勇に一言「頼む」と言うと、目の前はいつもの天井が戻っていた。
義勇は布団からむくりと上体を起こした。久しぶりに錆兎の夢を見て、変な時間に目が覚めた。
ああ、今日は錆兎の命日か。
忘れもしない錆兎の死から幾年もの時が経過した。
鬼殺隊隊士として任務をこなし、修行を繰り返す日々。俺はまだこうして生きている。
●とはあの雪の日以降、一度も会っていない。
会えなかった。きっと、お互いに。
水柱となった義勇は、どんなに忙しくとも錆兎の命日には必ず狭霧山を訪れた。滞在時間は僅かでも、共に育った友人の冥福を祈る。
今年も義勇は錆兎が切った大岩の前に来た。少し苔の伸びた大岩は時間の流れを感じさせる。いつかの雪の日、●がこの大岩に縋って泣いていた光景が蘇ってくる。
義勇がふと大岩の地面を見ると、今年も一輪の花が横たえてあった。毎年この日に、義勇がここを訪れると必ず花が供えてある。まだ枯れる素振りもないその花は、昨日今日で供えられたもののようだ。
「……………」
義勇は静かに手を合わせた。
●は、今どこでなにをしているんだろうな、錆兎………。錆兎なら、きっと知っているんだろう。夢の中で錆兎は、俺に何を頼もうとした?
義勇は大岩を後にすると育手である鱗滝に一言挨拶をする為狭霧山の麓にある家に立ち寄った。
「義勇か」
「ご無沙汰しております」
「うむ。柱として更に腕を上げているようだな」
「いえ、まだまだです。精進いたします」
「うむ。…数時間前に、●もここへ来た」
「…………」
●が………。
もう何処ぞの家に嫁いでいるのだろうか。家族が居て何処かで幸せに生きているなら、俺はもう………それでいい。その幸せが壊されぬよう、俺は鬼を切るだけだ。
「育手はわしではないが、鬼殺隊になっていた」
それを聞いて、無表情だった義勇の瞳が大きく見開かれた。心臓が嫌な音で鳴る。
あの●が……?鬼殺隊に……?
生死を分ける危険な鬼殺の現場に日々身を置いているのか?
人の血肉を喰らう鬼と、対峙しているのか…?
雪の中、錆兎の為に泣き続ける●の小さくて冷たい……弱々しい手を握った感覚は今でも忘れない。あんな弱い小さな手で…。
「●は行き先を告げましたか?」
「確か●のカラスは北へ行けと言っていたな」
居てもたってもいられなくなった義勇が、家の戸に手を掛けると鱗滝が呼び止めた。
「目印になるかは分からないが、今日●に…●の為に作り置いていた狐型の厄徐の面を渡した」
「わかりました。感謝致します、鱗滝さん」
義勇は鱗滝の家を出て、自分の出せる全速力で北へ向かった。数時間前に鱗滝の小屋を出たのなら、今夜鬼と対峙する前に●に追いつけるかもしれない。
***
2021.11.04確認!
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